退職代行とは?違法性の線引きと弁護士・労働組合・民間でできることの違い

退職代行とは、本人に代わって勤務先に退職の意思を伝えるサービスです。
退職を本人以外の人を通じて伝えることを禁じた規定は、民法にも労働基準法にもありません。違法性が問題になりうるのは、弁護士でない事業者が報酬を得て、本人に代わり会社と退職日や有給休暇などの条件を話し合う場合です。
この記事では、弁護士・労働組合・民間事業者でできることの違いと違法性の線引き、使う前に試せる無料の相談先、使ったあとに起きることを整理します。
言い出せないまま悩んでいるときも、辞めたあとの仕事探しまで一人で抱え込む必要はありません。退職代行を使うかどうか迷っている段階でも、次の仕事の相談は転職エージェントを活用すれば無料でできます。
退職代行とは|本人に代わって退職の意思を伝えるサービス
退職代行は、退職の意思を会社に届ける役目を、本人に代わって第三者が引き受けるサービスです。仕組みをつかむうえで、押さえておきたいのは次の3点になります。
- 期間の定めのない雇用は、会社が認めなくても辞められる
- 退職代行が代わるのは「伝える」部分で、辞めると決めるのは本人
- 契約期間の定めがある雇用は、辞められる条件が別に定められている
期間の定めのない雇用について、民法第627条第1項は、当事者がいつでも解約を申し入れられること、申入れの日から2週間で雇用が終わることを定めています。条文に会社の承諾を条件とする言葉はなく、会社が認めなければ辞められない、という仕組みにはなっていません。
退職代行は、この申入れを本人に代わって会社へ届けるものです。伝える役を誰が担っても、辞めると決めるのは本人であり、退職代行は「辞める許可」をもらうサービスではありません。
契約社員やアルバイトで契約期間が決まっている場合は、事情が変わります。民法第628条によれば、契約期間の途中でも、やむを得ない事情があれば直ちに契約を解除できます。ただし、その事情が一方の落ち度で生じたものなら、その側が相手に損害を賠償する責任を負うのです。期間の途中で辞めたいなら、退職代行を考える前に、契約書で契約期間と更新の条件を確かめておきましょう。
退職代行の運営主体は3つ|弁護士・労働組合・民間事業者でできることの違い
退職代行を名乗るサービスの運営主体は、弁護士、労働組合、それ以外の民間事業者の3つに分かれます。
- 弁護士は、代理人として交渉から裁判まで引き受けられる
- 労働組合は、組合員のために会社と団体交渉ができる
- 民間事業者が引き受けられるのは、本人の意思を伝えるところまで
- 依頼先は、会社と話し合いたいことがあるかどうかで選ぶ
| 運営主体 | 会社への伝え方 | 退職日・有給休暇・未払い賃金などの話し合い | 裁判になったときの代理 | 主な根拠 |
|---|---|---|---|---|
| 弁護士 | 本人の代理人として伝える | 代理人として交渉できる | 代理人になれる | 弁護士法第3条、民事訴訟法第54条 |
| 労働組合 | 組合として伝える | 組合としての実態があれば、組合員のための団体交渉として話し合える | 原則として代理人になれない | 労働組合法第6条・第7条 |
| 民間事業者 | 本人の意思をそのまま伝える | 報酬を得て代わりに話し合うと、弁護士法第72条に当たるおそれがある | 原則として代理人になれない | 弁護士法第72条 |
3つの違いは、会社と条件を話し合えるかどうかに集約されます。 伝えるだけで済んでいる間は違いが見えにくく、話し合いが必要になった時点で表に出てくるのです。

弁護士は、代理人として交渉から裁判まで引き受けられる
弁護士法第3条第1項は、依頼を受けて訴訟事件などの法律事務を行うことを弁護士の職務としています。退職代行でいえば、本人の代理人として退職を伝え、退職日や有給休暇の扱い、未払いの残業代などについて会社と交渉できるということです。話し合いで決着しない場合の裁判にも対応できます。民事訴訟法第54条第1項によれば、法令で認められた代理人を除いて、訴訟代理人になれるのは原則として弁護士だけ。
未払い賃金の請求や、会社から求められた損害賠償への対応など、法的な判断が欠かせない話が含まれるなら、最初から弁護士を選んでおけば、途中で依頼先を替えずに済みます。
参考:e-Gov法令検索「弁護士法」
参考:e-Gov法令検索「民事訴訟法」
労働組合は、組合員のために会社と団体交渉ができる
労働組合が会社と話し合える根拠は、労働組合法第6条にあります。
「使用者」は会社のこと、「労働協約の締結その他の事項に関して交渉する」は、労働条件などについて会社と話し合うことを指します。交渉の権限が認められているのは、労働組合とその組合員のための交渉です。退職代行として依頼するときも、自分がその組合の組合員として扱われるのか、加入の手続きや費用はどうなるのかを先に確かめておきましょう。会社の側は、同じ法律の第7条第2号で、雇用する労働者の代表者との団体交渉を正当な理由なく拒むことを禁じられています。
ただし、「労働組合」を名乗っていれば必ず交渉できるわけではありません。 労働組合法第2条は、労働者が主体となって自主的に、労働条件の維持改善などを主な目的として組織する団体を労働組合としています。東京弁護士会の非弁護士取締委員会は、労働組合とは名ばかりで実態が伴っていない場合は適法な労働組合とはいえず、団体交渉もできないと説明しています。労働組合が交渉する場合でも、その行為が必ず非弁行為にならないとは限らない、というのが同委員会の見解です。裁判になったときに原則として代理人になれないのは、民間事業者と変わりません。
参考:e-Gov法令検索「労働組合法」
参考:東京弁護士会「退職代行サービスと弁護士法違反」
参考:東京弁護士会「退職代行サービスと弁護士法違反 その2」
民間事業者が引き受けられるのは、意思を伝えるところまで
弁護士でも労働組合でもない事業者に頼むなら、任せる範囲は、本人が決めた内容を会社に伝えるところまでにとどめましょう。退職日や有給休暇の使い方を本人に代わって会社と話し合い始めると、弁護士法第72条の問題になりえます。
「弁護士監修」と書かれたサービスもありますが、弁護士が内容を監修していることと、弁護士本人が代理人として会社とやり取りすることは別の話です。会社と連絡をとるのは誰なのか、契約の前に確かめておきましょう。
依頼先は、会社と話し合いたいことがあるかで選ぶ
依頼先を選ぶときは、会社に伝えたあと、話し合いが必要になりそうかを先に見積もっておくと迷いません。
| 自分の状況 | 依頼先の考え方 |
|---|---|
| 退職の意思を伝えてもらえれば足り、会社と話し合うことはない | 3つのどれも候補になる |
| 退職日や有給休暇の使い方を、会社と調整したい | 弁護士、または組合としての実態がある労働組合 |
| 未払いの残業代や退職金、ハラスメントの慰謝料を請求したい | 弁護士 |
| 会社から損害賠償を求められている | 弁護士 |
最初は伝えるだけのつもりでも、会社から「引き継ぎが終わるまで退職は認めない」「有給休暇は使わせない」と返ってくれば、話し合いが必要になります。民間事業者に頼んでいた場合、その時点で依頼先を替えるか、本人が会社とやり取りするかを選ぶことになるでしょう。
退職代行は違法?|問題になるのは代わりに交渉する場合
退職代行の違法性が問題になるのは、引き受けた側が弁護士法の範囲を超えて動く場合です。本人以外の人を通じて退職を伝えることを禁じた規定は、民法にも労働基準法にもありません。整理すると、次の3点になります。
- 弁護士法第72条は、弁護士でない者が報酬を得て法律事務を扱うことを禁じている
- 退職にともなう残業代・退職金・有給休暇などの話し合いは「法律的な問題」にあたりうる
- 依頼する前に、運営主体と会社に連絡する人、料金に含まれる範囲を確かめる
弁護士法第72条が禁じていること
弁護士でない者が扱ってはならない範囲は、弁護士法第72条に書かれています。
東京弁護士会の非弁護士取締委員会は、条文の言葉を次のように説明しています。「法律事件」は訴訟のほか、すでに争いが起きている事案や、将来争いになる可能性が高い事案。「法律事務」は、法律相談や代理人としての交渉です。「業とする」は繰り返し行うこと、あるいは初めてでも繰り返す予定で行うことを指し、「周旋」には、報酬を得る目的で法律事務を弁護士などの第三者に取り次ぐことが含まれます。
退職代行で目安になるのは、伝えるだけにとどまるか、報酬を得て本人に代わり会社と交渉するかという点です。 罰則は同じ法律の第77条にあり、第72条の規定に違反した者は2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金の対象になります。
退職にともなう話し合いは「法律的な問題」になりやすい
東京弁護士会は、退職するときに会社と話し合って決めておかなければならない事項として、未払いの残業代、パワハラの慰謝料、退職金、残っている有給休暇の取得などを挙げ、これらを「法律的な問題」としています。そのうえで、業者が報酬を得て本人に代わり会社と話し合うことは、非弁行為となる可能性があると説明しています。契約期間の途中で辞めること、つまり雇用契約の解約も、同会が法律的な問題の例に挙げているものです。話し合いになったら提携先の労働組合に交代するとしていた業者の事例でも、代金を受け取って法律的な問題の処理を労働組合にあっせんすることは非弁行為だというのが、同会の説明です。
同会は、依頼した本人にとっての不利益にも触れています。残業代の計算は法律上意外と難しく、業者の話し合いで支払いを受けられたとしても、正しく計算すれば本来より少ない額だった、ということもありうるというのです。退職代行を選ぶときは、違法かどうかだけでなく、自分の権利が正しく守られるかという目でも見ておきたいところです。
依頼する前に確かめたい3つのこと
| 確かめること | 見るポイント |
|---|---|
| 運営主体 | 弁護士(法律事務所)、労働組合、民間事業者のどれか。労働組合なら、組合としての実態があるか |
| 会社とやり取りする人 | 「弁護士監修」かどうかではなく、実際に会社と連絡をとるのは誰か |
| 料金に含まれる範囲 | 会社との連絡は何回までか、書類の受け取りまで対応するか。追加料金と返金の条件 |
労働組合としての実態があるかどうかは、外から見ただけでは判断しにくいものです。迷うときは、総合労働相談コーナーや弁護士に相談してから決めても遅くありません。
参考:e-Gov法令検索「弁護士法」
参考:東京弁護士会「非弁行為とは」
参考:東京弁護士会「退職代行サービスと弁護士法違反」
退職代行のメリットとデメリット|自分で伝える場合と比べる
退職代行を使うかどうかは、自分で伝える場合と何が変わるかを並べると判断しやすくなります。
- 言い出す場面や引き止めの場に、一人で臨まずに済む
- 費用がかかり、民間事業者には条件の話し合いを頼めない
- 会社からの連絡や、書類・貸与品のやり取りは残る
| 比べる点 | 自分で伝える | 退職代行に頼む |
|---|---|---|
| 会社に伝える人 | 本人 | 依頼先(弁護士・労働組合・民間事業者) |
| 費用 | かからない | 依頼先に料金を払う |
| 引き止めへの対応 | 本人がその場で受け止める | 依頼先を通じて伝えるため、面と向かって説得される場面は減る |
| 退職日や有給休暇の調整 | 本人が会社と話し合う | 民間事業者には頼めない。弁護士と、組合としての実態がある労働組合は話し合える |
| 会社からの連絡 | 本人に来る | 依頼先を窓口にしても、本人に連絡が来ることがある |
| 引き継ぎと返却物 | 出社して直接済ませられる | 書面や郵送でのやり取りが中心になる |
退職代行のいちばんの利点は、言い出す場面そのものを第三者に預けられることです。 上司と向き合うと何も言えなくなる、切り出したら強く引き止められて話が進まなかった。そんな状況では、伝える役を任せるだけで、止まっていた手続きが動き出すこともあるでしょう。
反対に、費用がかかること、会社と直接話さないまま辞めることになること、民間事業者には条件の話し合いを頼めないことは、使う前に受け止めておきたい点です。退職代行を使っても、書類の受け取りや貸与品の返却といった会社とのやり取りは残ります。
退職代行を使う前に、自分でできること
退職代行は、言い出せない状況を抜け出す手段の一つです。依頼する前に、費用をかけずに試せる方法もあります。
- 直属の上司に言えないなら、人事部門やさらに上の立場の人に伝える
- 口頭で切り出せないなら、退職届を書面で出す
- 退職をめぐる相談は、総合労働相談コーナーで無料でできる
- 平日の夜や休日はほっとライン、心身がつらいときはこころの耳へ
直属の上司に言えないなら、人事や上の立場の人に伝える
退職を申し入れる相手は、雇用契約を結んでいる会社です。最初に話す相手を直属の上司に限る定めは、民法にはありません。上司との関係そのものがつらいなら、人事部門や、上司よりさらに上の立場の人に伝える方法もあります。就業規則に退職の申出先や手続きが書かれていれば、それに沿うのが確実でしょう。
口頭で切り出せないなら、書面で出す
面と向かって話すのが難しいときは、退職届を書面で出す方法があります。手渡しが難しければ郵送でも構いません。受け取ってもらえないおそれがあるなら、出した文書の中身と差し出した日を日本郵便に証明してもらえる内容証明に、届いた事実を証明する配達証明を付けて送ることもできます。
参考:日本郵便「内容証明」
退職をめぐる相談は、総合労働相談コーナーで無料でできる
厚生労働省の総合労働相談コーナーは、全国378か所(2026年4月1日現在)にある労働問題の相談窓口で、退職をめぐる相談も受け付けています。予約なしで、面談でも電話でも話せて、費用はかかりません。土日・祝日と年末年始は閉まっています。
厚生労働省「令和7年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、2025年4月から2026年3月までに総合労働相談コーナーに寄せられた民事上の個別労働関係紛争の相談は277,053件でした。労働条件などをめぐる個々の労働者と事業主の間の紛争のうち、労働基準法などの違反にあたるものを除いた相談です。内容別では、自己都合退職をめぐる相談が38,386件あり、解雇をめぐる相談の32,651件より多くなっています。件数は1回の相談が複数の内容にまたがるときにそれぞれ数えた延べの数で、相談者には事業主も含まれます。退職代行の利用者数ではなく、公的な窓口に持ち込まれた相談の件数である点に注意してください。
会社が退職を認めないときは、民間の代行に頼む前に、無料の公的な制度で会社に働きかけてもらう道もあるのです。 都道府県労働局長による助言・指導は、当事者に解決の方向を示し、自主的な解決を促す制度。それでも折り合わなければ、弁護士や大学教授など労働問題の専門家が間に入って話し合いを進めるあっせんも使えます。あっせんは原則として当事者が別々の部屋で待ち、あっせん委員が個別に意見を調整する方式で、会社の人と顔を合わせずに進められるのが特徴です。どちらも利用は無料で、総合労働相談コーナーでは、希望すれば裁判所や法テラスなど、ほかの紛争解決機関の情報も教えてもらえます。
参考:厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」
参考:厚生労働省「令和7年度個別労働紛争解決制度の施行状況」
参考:厚生労働省「個別労働紛争解決制度(労働相談、助言・指導、あっせん)」
平日の夜や休日はほっとライン、心身がつらいときはこころの耳へ
労働基準監督署などが閉まっている時間帯には、厚生労働省が委託して運営している「労働条件相談ほっとライン」に電話できます。平日は17時から22時、土日・祝日は9時から21時まで(12月29日〜1月3日を除く)電話で相談を受け付けており、誰でも無料で、名前を伝えずに相談することもできます。相談の中心は労働時間や賃金など労働基準関係の法令をめぐる内容で、この窓口から会社に指導することはできません。
会社のことを考えるだけで眠れない、出勤しようとすると体が動かない。そんな状態なら、辞め方を決めるより先に、休むことと相談することを優先してください。厚生労働省の「こころの耳」には、働く人が匿名・無料で使える電話・SNS・メールの相談窓口があります。
参考:厚生労働省「労働条件相談ほっとライン」
参考:厚生労働省「こころの耳の相談窓口」
退職代行を使ったあとに起きること
退職代行が会社に連絡したあとも、本人の側でやることはいくつか残ります。
- 会社から本人に連絡が来ることがある
- 有給休暇は、残りの日数を確かめてから使い方を伝える
- 貸与品は送り返し、離職票や源泉徴収票を受け取る
- 損害賠償は、損害の有無と辞め方によって判断される
会社から本人に連絡が来ることもある
退職代行を使っても、本人と会社のやり取りがなくなるとは限りません。東京弁護士会には、退職代行業者から連絡を受けた会社が、非弁行為ではないかとして業者からの連絡を拒むケースが寄せられているといいます。会社が業者とのやり取りを拒めば退職の話は進まず、本人が改めて自分で会社に連絡する必要が出てきます。
書類の送り先や貸与品の返し方など、本人でなければ答えられないことを確認される場面もあるでしょう。電話に出るのがつらいなら、連絡はメールや書面でお願いしたいと、依頼先を通じて伝えておく方法があります。退職の意思が会社に届いたことを自分でも残しておきたいなら、配達の記録が残る方法で退職届を郵送しておきましょう。
参考:東京弁護士会「退職代行サービスと弁護士法違反 その2」
有給休暇は、残りの日数を確かめてから使い方を伝える
残っている年次有給休暇は、労働基準法第39条にもとづく権利です。同条第5項により、会社は原則として労働者が請求した時季に与えなければならず、時季を変えられるのは、請求された時季に休ませると事業の正常な運営を妨げる場合に限られます。厚生労働省は、この判断は個別的・具体的・客観的に行われると説明しています。
退職日までの日数と残りの日数を見比べて、全部使いたいのか、一部でよいのかを先に決めておきましょう。時期や日数で会社と意見が分かれたときの調整は話し合いにあたるため、民間事業者に代わりに頼むと弁護士法の問題になりえます。 給与明細や勤怠システムで残りの日数を確かめておけば、依頼先に伝える内容もぶれません。
参考:e-Gov法令検索「労働基準法」
参考:厚生労働省 スタートアップ労働条件「年次有給休暇はどのような場合に、何日与えなければならないのでしょうか?」
貸与品を返し、離職票や源泉徴収票を受け取る
社員証や制服、パソコンなど会社から借りている物は、出社しないまま辞めるなら郵送で返すことになります。追跡できる方法で送り、送った日と中身を記録しておくと、行き違いを防げます。職場に私物が残っているなら、送り返してもらう方法と時期を、依頼先を通じて確かめておきましょう。
退職後に受け取る書類には、会社が守るべきことが法令で決まっているものがあります。
| 書類 | 使う場面 | 会社に求められていること | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 離職票 | 雇用保険の基本手当を受け取る手続き | 被保険者でなくなった日の翌日から10日以内にハローワークへ出す届に、離職証明書を添える。本人が離職票を希望しなければ省けるが、59歳以上は省けない | 雇用保険法施行規則第7条 |
| 源泉徴収票 | 転職先での年末調整、または確定申告 | 退職の日以後1か月以内に交付する | 所得税法第226条第1項 |
| 退職証明書 | 在籍した期間や業務の種類などを示す | 請求があれば遅滞なく交付する。本人が請求しない事項は書かない | 労働基準法第22条 |
離職票が必要なら、そのことを依頼先を通じて会社にはっきり伝えておきましょう。 雇用保険法施行規則第7条は、本人が離職票の交付を希望しないとき、会社が離職証明書を添えずに届け出ることを認めているからです。会社から離職票が届かないときは、住まいを管轄するハローワークに問い合わせられます。退職証明書は、請求しても交付されなければ労働基準監督署に相談できます。
参考:e-Gov法令検索「雇用保険法施行規則」
参考:e-Gov法令検索「所得税法」
参考:ハローワークインターネットサービス「雇用保険の具体的な手続き」
参考:国税庁「No.2674 中途就職者の年末調整」
参考:厚生労働省 確かめよう労働条件「自己都合の退職の際、退職勤務証明書を請求できますか?方法は?」
損害賠償を心配している人へ
退職代行を使ったら損害賠償を請求されるのではないか、と不安に思う人もいるでしょう。まず、労働基準法第16条により、会社は、労働契約が守られなかったときの違約金や損害賠償の金額を前もって取り決める契約を結んではいけません。入社時に「途中で辞めたら違約金を支払う」と約束させることも、この条文が禁じる取り決めにあたります。
そのうえで、実際に損害が生じた場合の賠償まで、一律に否定されているわけではありません。厚生労働省の「確かめよう労働条件」は、期間の定めのある契約を途中で辞めた場合について、当然に損害賠償を請求されるわけではなく、会社に損害が生じているか、それが退職によるものかを検討して判断されると説明しています。一方で、退職の仕方や手続きによっては損害賠償責任が生じることもあるとして、入社直後の突然の退職をめぐって賠償を命じた裁判例も紹介しています。
判断の軸は、会社に損害が生じたかどうかと、それが辞め方によるものかどうかです。 退職代行を使う場合も、引き継ぎに必要な資料を残しておく、契約期間の定めがあるなら民法第628条の条件を確かめておくといった備えが意味を持ちます。会社から賠償を求められたり、念書への署名を求められたりしたときは、その場で応じず、弁護士や総合労働相談コーナーに相談してください。
参考:e-Gov法令検索「労働基準法」
参考:厚生労働省 確かめよう労働条件「長期契約を結んだものの、途中で退職した場合には損害賠償請求されますか?」
参考:厚生労働省 確かめよう労働条件「裁判例 辞職」
退職代行を使われた会社の側から見えること
退職代行の連絡を受け取る会社の側から見ると、何が起きているのでしょうか。
- 期間の定めのない雇用なら、会社が承諾しなくても申入れから2週間で雇用は終わる
- 労働組合からの団体交渉の申入れは、正当な理由なく拒めない
- 経営者の中には、言いにくいことを言える経路を社内に先につくろうとする人もいる
期間の定めのない雇用なら、会社が承諾しなくても、退職の申入れから2週間が過ぎれば雇用は終了します。労働組合から団体交渉を申し入れられたときに、正当な理由なく拒めば不当労働行為です。
私たちが取材で聞く経営者の工夫には、社員が言いにくいことを抱え込まないよう、話せる経路を社内に先に用意しておくものが少なくないと感じます。
Ydk日本橋税理士法人の山口晴啓代表は、勤めていた税理士事務所で理不尽な扱いを受けた経験から、若い人が嫌な思いをして辞めていく環境を変えたいと考えて開業した人です。いまの職場では、社内の人には話しにくいことを話せる場を設けています。
社外の人に話せる経路を先に用意しておくのは、退職代行が担っている「第三者を通じて伝える」役目を、会社が自分の内側に持っておく考え方とも読めます。
Avalon Consulting株式会社の竹内健登社長は、社員が自分の希望を口にできる場を、毎月の面談として仕組みにしています。
希望を話す場が毎月あれば、「辞めたい」に変わる前の小さな違和感の段階で、口に出しやすくなるはずです。
辞めることを前提にした仕組みを用意しようとしている経営者もいます。キュリオシティ株式会社の金田隼人CEOは、今後の制度についてこう語っています。
卒業が制度として用意されている会社なら、辞めたいと切り出すこと自体が、裏切りのような重さを帯びずに済むでしょう。
次の職場を選ぶときは、辞めたいと言い出せる経路があるかどうかも、確かめる項目に加えてみてください。 面接で「上司以外に相談できる窓口はありますか」「1on1や面談はどのくらいの頻度ですか」「辞めた人とはその後どんな関係ですか」と聞けば、制度の有無だけでなく、答える言葉の具体性から職場の空気が見えてきます。部下の信頼を失う叱り方については、上司の側から書いたデキル上司の叱り方【部下を育てる指導方法】も参考になるでしょう。
経営者インタビューでは、社員の声をどう拾い、辞めていく人とどう向き合っているのかを、経営者自身が語っています。
退職代行に関するよくある質問
退職代行を使うこと自体は違法ですか?
民法や労働基準法には、退職の意思を第三者を通じて伝えることを禁じる定めはありません。 法律上の問題になりやすいのは、引き受けた側が弁護士でないのに、報酬を得て本人に代わり、退職日や有給休暇、未払い賃金などを会社と交渉する場合です。弁護士法第72条は、弁護士でない者が報酬を得る目的で法律事務を扱うことを業とするのを禁じ、第77条で違反した者への罰則を定めています。依頼する前に、運営主体と、会社と交渉できる立場かどうかを確かめておきましょう。
退職代行は使わないほうがいいですか?
使うかどうかに正解はなく、自分で伝えられる状況かどうかと、会社と話し合うことがあるかどうかで決めれば十分です。 人事部門に伝える、書面で出す、総合労働相談コーナーに相談するといった方法で動けそうなら、費用をかけずに済みます。上司と向き合うのが難しい、心身がつらくて会社と連絡をとること自体が負担になっているといった事情があるなら、退職代行は選択肢の一つになるでしょう。その場合も、条件の話し合いが必要なら、弁護士か、組合としての実態がある労働組合を選んでください。
退職代行を使えば、その日のうちに辞められますか?
その日から出社しないことと、雇用契約がその日に終わることは別の話です。 期間の定めのない雇用では、退職の申入れから2週間がたつと雇用が終わります。それまでの期間は、残っている有給休暇を使うか、会社と合意して退職日を早めるかで、出社せずに済ませる形が考えられます。退職日を早めるための話し合いまで頼むなら、弁護士か、組合としての実態がある労働組合が依頼先です。
会社は退職代行からの連絡を拒否できますか?
期間の定めのない雇用なら、会社の承諾がなくても、申入れの日から2週間がたてば雇用は終わります。 そのうえで、会社の対応は依頼先によって変わります。労働組合からの団体交渉の申入れを正当な理由なく拒むことは、労働組合法第7条第2号が禁じる不当労働行為です。一方、東京弁護士会によると、民間の業者からの連絡を非弁行為ではないかとして拒む会社もあり、その場合は本人が自分で会社に連絡する必要が出てきます。
退職代行の料金は、何を基準に比べればいいですか?
金額だけでなく、その料金で何をしてもらえるかを比べてください。 会社との連絡は何回までか、離職票などの書類の受け取りまで対応するか、追加料金がかかるのはどんなときか、返金の条件はどうなっているか。契約の前に書面で確かめておくと、あとで食い違いが起きにくくなります。
まとめ
退職代行とは、本人に代わって勤務先に退職の意思を伝えるサービスです。期間の定めのない雇用であれば、会社が認めるかどうかにかかわらず、申入れから2週間で雇用は終わります。違いが出るのは、誰に頼むか。弁護士は交渉から裁判まで代理でき、組合としての実態がある労働組合は組合員のために団体交渉ができます。民間事業者が引き受けられるのは意思を伝えるところまでで、報酬を得て代わりに交渉すれば弁護士法第72条に当たるおそれがあるのです。
使う前には、人事部門や上の立場の人に伝える、書面で出す、総合労働相談コーナーに相談するといった、費用のかからない方法も試せます。使ったあとも、有給休暇の使い方や離職票などの書類、貸与品の返却といったやり取りは残ると考えておきましょう。
正直なところ、退職代行を使うかどうかより気がかりなのは、辞めたいと言い出せないまま、毎朝の出勤を重ねている状態のほうです。伝える手段は一つではないと知っておくだけでも、取れる選択肢は増えるはずです。辞めたあとに応募書類を整えるときは、履歴書のAI作成はバレる?見抜かれない書き方のコツも参考にしてください。
辞めると決めたあとの仕事探しは、マイナビやリクナビといった求人サイトで探すほか、転職エージェントに相談しながら進める方法もあります。

