パーパス経営とは?意味と注目される背景、MVVとの違い|形だけか見分ける方法

パーパス経営とは、会社が社会の中で何のために存在するのかという存在意義(パーパス)を言葉にし、経営判断の軸に置く経営のことです。
ただ、パーパスは掲げるだけならどの会社にもできます。形だけで終わっているかどうかは、経営陣がその言葉で自社の判断を説明できるかに表れるものです。
この記事では、パーパスとMVVの関係や注目される背景を公的な資料で確かめ、就活・転職で会社のパーパスを読む手順と、形だけかどうかの見分け方まで整理します。
会社のパーパスに本当に共感できるかは、外から読める言葉だけでは決めきれないものです。働く人の様子や選考で見られる点まで知りたいときは、転職エージェントを活用すれば無料で相談できます。
パーパス経営とは?存在意義を経営の判断軸に置くこと
パーパス経営という言葉は、次の3点を押さえると理解しやすくなります。
- パーパスは、会社が社会の中で何のために存在するのかという存在意義を指す
- パーパス経営は、その存在意義を事業や人材の判断にまでつなげる経営を指す
- 本記事で確認した公的資料の範囲では、パーパス経営という言葉そのものを定めた定義は見当たらない
「パーパス(purpose)」は、英語で目的や意図を表す言葉です。経営の文脈では、会社の存在意義、つまり「この会社は社会の中で何のために存在するのか」という問いへの答えを指して使われます。パーパス経営は、その答えを言葉にして掲げるだけでなく、どの事業に力を注ぐか、どんな人を迎えてどう評価するかといった経営の判断に結びつけていく考え方です。
この言葉は、国の報告書にも登場します。「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~人材版伊藤レポート2.0~」(経済産業省、2022年5月)は、2020年9月の「人材版伊藤レポート」で示した要点の一つとして、「経営陣においては、企業理念や存在意義(パーパス)、経営戦略を明確化した上で、経営戦略と連動した人材戦略を策定・実行すべきである」と整理しました。存在意義を明らかにして終わりではなく、経営戦略と人材戦略につなげるところまでが経営陣の役割とされているのです。
一方で、本記事で確認した範囲の公的資料には、「パーパス経営」という言葉そのものを定めた定義は見当たりませんでした。上場会社向けのコーポレートガバナンス・コードも、最新の2026年7月版の本文では「パーパス」という語を使っていません。「パーパス」「存在意義」「使命」と呼び方が会社ごとに違うことを前提に、言葉の名前より中身で読むのが現実的でしょう。
パーパスを「掲げている」状態と「経営に使っている」状態の違い
パーパスを掲げている会社が、すべてパーパス経営をしているとは限りません。人材版伊藤レポート2.0が経営陣に求めている取り組みを手がかりに、2つの状態を比べてみます。
| 見るところ | 掲げているだけの状態 | 経営に使われている状態 |
|---|---|---|
| 事業の判断 | パーパスと事業計画が別々に語られる | 力を入れる事業や新しい取り組みの理由として、パーパスが語られる |
| 人の評価と登用 | 理念のページにあるだけで、評価の仕組みとはつながっていない | 重視する行動や姿勢が、任用・昇格・報酬・表彰の仕組みに反映されている |
| 社員の日常 | 社員が文言を覚えておらず、職場で話題にならない | 社員が自分の仕事を説明するときに、パーパスの言葉が出てくる |
| 社外への説明 | スローガンとして掲げるだけで、中身の説明がない | 社会や環境にどう貢献するのかを、経営陣が自分の言葉で説明している |
同報告書は、CEOやCHRO(人事の最高責任者)が、自社が社会・環境にどのようなインパクトをもたらすべきかという観点から企業理念や企業の存在意義を再考すること、企業として重視する行動や姿勢が社員に浸透するよう任用・昇格・報酬・表彰などの仕組みを検討することを挙げています。社会や環境への貢献との結びつきを、CEOやCHROが自ら投資家に説明することも、取り組みの工夫として示されました。表の右側は、こうした取り組みが実際に回っている状態を言葉にしたものです。 あくまで見分けるための目安で、どの会社もどちらか一方にきれいに分かれるわけではありません。
参考:経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~人材版伊藤レポート2.0~」
参考:東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード(2026年7月版)」
パーパスとミッション・ビジョン・バリューの関係
パーパスは、ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)と並べて語られることの多い言葉です。関係を整理すると、ポイントは次の3つになります。
- パーパスは「社会の中でなぜ存在するのか」に答える言葉
- ミッションも使命や存在意義として説明されることがあり、パーパスとの重なりが大きい
- パーパス・MVV・経営理念の並べ方に決まった型はなく、会社ごとに違う
MVVは、使命を表すミッション、目指す姿を表すビジョン、価値観や行動指針を表すバリューをまとめた呼び方です。3つそれぞれの意味はMVVとは?ミッション・ビジョン・バリューの意味と違い|会社選びでの読み方で整理しているので、ここではパーパスとの関係に絞ります。
パーパスが答えるのは、「この会社は社会の中でなぜ存在するのか」という問いです。ビジョンが目指す姿を、バリューが日々の考え方や動き方を示すのに対し、パーパスは会社がそこにいる理由そのものを言葉にします。ややこしいのはミッションとの関係でしょう。日本政策金融公庫の「創業の手引」も、ミッションの中身として「使命や存在意義」を挙げています。ミッションの説明に存在意義が含まれることもある以上、パーパスとミッションの境目は、会社ごとの使い方で決まると考えたほうが実態に合います。
パーパスとMVVの並べ方は、大きく3つの型に分かれる
実際の掲げ方を見ていくと、パーパスとMVVの並べ方は大きく次の3つの型に分けられます。どれが正しいということはありません。
| 型 | 並べ方 | 読むときのポイント |
|---|---|---|
| パーパスを最上位に置く | パーパスを頂点に置き、その下にミッション・ビジョン・バリューを並べる | パーパスとMVVの各要素がどうつながるかの説明を探す |
| MVVの中に存在意義を書き込む | パーパスという言葉は使わず、ミッションなどで存在意義を示す | ミッションの文が「なぜ存在するのか」に答えているかを見る |
| 理念とパーパスを並べて掲げる | 以前からの理念とは別に、パーパスを新しく定める | それぞれが何のための言葉なのか、会社の説明で役割を確かめる |
2つ目の型の例として、中小企業庁「2025年版中小企業白書」が取り上げた愛知県の製缶会社、側島製罐株式会社があります。家業に入った石川貴也代表は、よりどころとなる経営理念がないことに問題意識を持ち、全社員を巻き込んで、社員が働く意味と同社の存在意義・価値を定義するミッション・ビジョン・バリューの策定に着手しました。代表の役割は取りまとめと言語化にとどめ、策定のオーナーシップは社員に任せて、約1年をかけて作り上げたといいます。パーパスという名前の言葉がなくても、存在意義を定める取り組みは行われているわけです。
3つ目の型に近い整理は、人材版伊藤レポート2.0にも見られます。同報告書は「企業理念、企業の存在意義、企業文化の定義」を一つの取り組みとして挙げ、3つを別々の言葉として並べました。応募先がどの型をとっているかは、理念のページでの並べ方や、社長メッセージでの使い分けから読み取れます。
参考:日本政策金融公庫「創業の手引」
参考:中小企業庁「2025年版中小企業白書 第2部第1章第2節 経営の透明性・開放性」
参考:経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~人材版伊藤レポート2.0~」
パーパス経営が注目される背景
パーパス経営が語られるようになった背景は、公的な資料からも読み取れます。主なものは次の4つです。
- 人材戦略を見直すために、存在意義まで立ち戻ることが求められた
- サステナビリティやESGへの関心から、社会への貢献を説明する必要があるとされた
- 上場会社向けのルールが、会社としての価値観と行動準則を求めている
- 学生など働く側が、会社の存在意義に関心を持っている
経済産業省の報告書が「存在意義(パーパス)まで立ち戻る」ことを求めた
人材版伊藤レポート2.0は、2020年9月の人材版伊藤レポートで示した方向性を振り返り、企業が直面する経営上の課題は人材面の課題と表裏一体だとしたうえで、「各社がそれぞれ企業理念や存在意義(パーパス)まで立ち戻り、持続的な企業価値の向上に向け、人材戦略を変革させる必要」があると整理しました。
同報告書はさらに、経営戦略の実現に向けて社員を動機づけるには、その戦略の前提となる企業の理念や存在意義を明確にすることが大切になるとしています。近年のサステナビリティやESG(環境・社会・企業統治)への関心の高まりを受けて、その企業が社会や環境にどう貢献していくかを企業理念や存在意義に反映し、ステークホルダーに説明する必要がある、という指摘も並びます。パーパスは、社員を動かす言葉であると同時に、社外に向けて会社の貢献を説明する言葉としても位置づけられているわけです。
コーポレートガバナンス・コードは「会社としての価値観」と行動準則を求めている
東京証券取引所が定める上場会社向けのコーポレートガバナンス・コードは、2026年7月版の本文を通して確認したところ、「パーパス」「存在意義」という言葉が出てきません。ただし、考え方の近い原則はあります。
基本原則2は、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の創出が、従業員、顧客、取引先、債権者、地域社会といったステークホルダーによるリソースの提供や貢献の結果であることを十分に認識するよう、上場会社に求めるものです。その解釈指針は、ステークホルダーとの適切な協働や健全な事業活動倫理などについて「会社としての価値観を示しその構成員が従うべき行動準則を定め、実践すべきである」としました。取締役会には、行動準則の策定・改訂の責務を担い、それが事業活動の第一線にまで浸透し、守られるようにすることを求めています。
原則4-1も、取締役会が「会社の目指すところ(経営理念等)を確立し、それに向けた成長の道筋を構築する」ことを主要な役割・責務の一つと捉えるよう求めています。掲げた言葉を価値観や行動準則に落とし込み、成長の道筋とつなげるところまでを、コードは上場会社の経営に描いているわけです。
コードは法令ではなく、東京証券取引所の定めです。プライム市場とスタンダード市場の上場会社は全原則について、グロース市場の上場会社は基本原則について、実施しないものがあれば理由の説明を求められます。つまり基本原則2はどの市場の上場会社にもかかり、原則4-1はプライム市場とスタンダード市場の会社が対象という関係です。上場していない会社には直接かからないため、ベンチャーや中小企業では、パーパスを掲げるかどうかも含めて会社ごとの判断に委ねられているのです。市場区分の違いは上場とは?IPOとの違いと東証の市場区分|上場企業で働くと何が変わるかで紹介しています。
働く側の関心も、背景の一つになっている
人材版伊藤レポート2.0は、学生の採用に関する工夫として「学生は、企業の存在意義や事業機会、多様な人材が受け入れられる風土等に、高い関心を持っている」と記しています。そのうえで企業に対し、自社に共感する学生を獲得する観点から、人的資本経営の方針やその中で重視している施策を学生へ発信するよう促しました。
会社の存在意義は、投資家だけでなく、これから働く人に向けた言葉としても扱われているということです。 就活や転職で会社のパーパスを目にしたら、自分に向けて書かれた言葉でもあると受け止めて読む価値があります。


参考:経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~人材版伊藤レポート2.0~」
参考:東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード(2026年7月版)」
参考:日本取引所グループ「コーポレートガバナンス・コード」
就活・転職で会社のパーパスを読む3つの手順
パーパスは、会社選びの材料にもなります。短い一文のまま眺めるより、次の3つの手順で読むほうが、言葉の中身は見えやすいでしょう。
- パーパスが書かれている場所を探す
- 「誰の、何を、どう変えるのか」に言い換える
- 自分の仕事とのつながりを想像する
手順1:パーパスが書かれている場所を探す
まず、その会社がどこで、どんな名前で存在意義を語っているかを確かめます。見る場所は、会社サイトの企業理念や会社概要のページ、社長メッセージ、採用ページが中心です。マイナビやリクナビの企業ページ、転職エージェントから受け取る求人の資料に、理念が書かれていることもあります。上場会社なら、統合報告書などの投資家向け資料で、経営陣が理念や戦略を説明している場合もあるでしょう。
前の章で見たとおり、パーパスという名前の言葉を使わない会社もあります。その場合は「ミッション」「存在意義」「私たちの使命」といった見出しを探してみてください。名前にこだわるより、「この会社はなぜ存在するのか」に答えている一文を見つけることが先です。
手順2:「誰の、何を、どう変えるのか」に言い換える
パーパスは短く抽象的な言葉で書かれることが多く、そのままでは「よさそうな言葉」として読み終えてしまいがちです。見つけたら、「誰の」「何を」「どう変えるのか」の3つに分けて言い換えてみましょう。
たとえば「暮らしの不便をなくす」というパーパスなら、誰の暮らしなのか(一人暮らしの人か、子育て中の家族か)、どんな不便なのか(買い物か、手続きか)、どうやってなくすのか(どの事業やサービスでか)を、会社の事業紹介と照らし合わせて埋めていきます。3つが埋まれば、パーパスと事業がつながっていると考えてよいでしょう。どうしても埋まらない部分が残るなら、そこが説明会や面接で尋ねる価値のあるポイントになります。
手順3:自分の仕事とのつながりを想像する
最後に、入社したら自分が担う仕事が、そのパーパスのどこにつながるのかを考えます。営業職なら誰に何を届ける仕事になるのか、管理部門ならパーパスを支えるどの仕組みを受け持つのか。ここまで想像できれば、「パーパスに共感しました」の一言で終わらない志望理由の材料にもなります。
人材版伊藤レポート2.0は、入社後に経験できる人材育成の仕組みなど、学生が将来受けられる人への投資の内容を、企業ができる限り具体的に説明するよう求めています。つながりが想像しにくいときは、逆質問で「この職種の仕事は、パーパスのどの部分につながっていますか」と聞いてみるのも一つの方法です。逆質問の組み立て方は面接の逆質問は何を聞く?一次・二次・最終の例文とNG、社長が答えたくなる質問で詳しく紹介しています。


参考:経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~人材版伊藤レポート2.0~」
形だけのパーパスを見分ける4つのポイント
掲げたパーパスが日々の経営と結びつかず、言葉だけが先に立っている状態は「パーパス・ウォッシュ」と呼ばれることもあります。見分ける手がかりは、文面のうまさではありません。経営陣がその言葉で自社の判断を説明でき、実際の行動に移しているかどうかです。 次の4つを確かめてみてください。
- パーパスを決めた経緯を、経営陣が語れるか
- 決めたあとに、会社の中で何が変わったかを示せるか
- 評価・登用・表彰の仕組みに、パーパスが表れているか
- 社員にも共有され、日々の仕事の中で使われているか
パーパスを決めた経緯を、経営陣が語れるか
パーパスが経営に根づいている会社では、その言葉をいつ、なぜ決めたのかを経営陣が具体的に語れます。 人材版伊藤レポート2.0も、企業理念や企業の存在意義、企業文化について、CEOとCHROが主導して経営陣や取締役会で議論する機会を設けることを挙げています。決める過程で経営陣自身が議論を重ねていれば、経緯を語る言葉も持っているはずです。
取材で存在意義の話題になると、経営者の口から最初に出てくるのは、決めたときの社内の議論や事業の転機の話であることが多いと私たちは感じています。良い例は、創業の経緯や事業の転機と結びつけて、その言葉を選んだ理由を話せる会社。反対に、決めた手順の説明だけで終わり、なぜその言葉なのかが語られない場合は、言葉と経営判断のあいだがまだつながっていない可能性があります。
説明会や面接では「このパーパスは、いつ、どんなきっかけで決めたのですか」と尋ねてみましょう。
決めたあとに、会社の中で何が変わったかを示せるか
パーパスが経営に使われていれば、決めたあとに何かしらの変化が起きているはずです。新しく始めた事業や取り組み、見直した制度、会議で判断の理由として持ち出される言葉など、規模の大小は問いません。
「パーパスを定めてから、社内で変わったことは何ですか」と尋ね、具体的な出来事が1つでも返ってくるかを見てください。 その出来事がパーパスの言葉とどうつながるのかまで説明されれば、経営に使われている手がかりになります。返ってくる話がポスターの掲示や名刺への印刷といった掲げ方の話だけなら、言葉がまだ経営の外側にとどまっているのかもしれません。
評価・登用・表彰の仕組みに、パーパスが表れているか
人材版伊藤レポート2.0は、企業として重視する行動や姿勢が社員に浸透するよう、CEOとCHROが社員の任用・昇格・報酬・表彰などの仕組みを検討することを挙げています。人の評価や登用に表れているかどうかは、パーパスが本気で運用されているかを外から測りやすい物差しです。
採用ページや募集要項に評価の考え方や表彰制度の説明があれば、パーパスの言葉と見比べてみましょう。面接では「最近、パーパスに沿った行動として表彰されたり、評価されたりした例はありますか」と聞けます。答えに具体的な人や場面が出てくるかどうかが、見るポイントです。
社員にも共有され、日々の仕事の中で使われているか
最後に、パーパスが経営陣の言葉にとどまらず、社員まで届いているかを確かめます。参考になるのが、中小企業庁「2025年版中小企業白書」が取り上げた調査結果です。帝国データバンク「令和6年度中小企業の経営課題と事業活動に関する調査」に回答した24,588の事業者のうち、「従業員への経営理念・ビジョンの共有」に十分に、またはある程度取り組んでいると答えたのは70.2%でした。
同じ白書は、直近3年間に従業員を採用した事業者に、採用した従業員の定着割合を尋ねた結果を、この取り組みの有無で比べています。定着割合が「7割以上」と答えたのは、共有に取り組んでいる事業者(回答数14,390)で52.6%、取り組んでいない事業者(回答数4,379)で48.5%。「3割以上7割未満」は34.2%と32.7%、「3割未満」は13.2%と18.8%でした。


取り組んでいる事業者のほうが、定着割合の高い層がやや多く、低い層がやや少ないという結果です。 ただし、これは経営理念・ビジョン全般の共有についての事業者側の回答で、パーパスに限った数字ではありません。白書自身も、透明性を高めることで従業員のモチベーションが高まったことが定着率にも寄与している「可能性がある」という書き方にとどめており、共有すれば人が定着すると言い切れるデータではないのです。
それでも、働く側にできる確かめ方ははっきりしています。社員と話せる機会があれば、「仕事の中でパーパスを意識するのは、どんな場面ですか」と聞いてみてください。社員が自分の担当業務に引きつけて答えられるなら、言葉が日々の仕事まで届いている手がかりになります。OB・OG訪問やカジュアル面談は、その答えを直接聞ける数少ない機会です。
参考:経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~人材版伊藤レポート2.0~」
参考:中小企業庁「2025年版中小企業白書 第2部第1章第2節 経営の透明性・開放性」
経営者は、自社の存在意義をどう語っているか
熱狂ベンチャーナビの取材でも、経営者が自社の存在意義に触れる場面は少なくありません。2人の経営者の言葉から、次の2つの見方を紹介します。
- 存在意義は、事業を続ける中で輪郭がはっきりしていくことがある
- 存在意義を「必要とされ続けること」と結びつけて考える経営者もいる
パーパスを社外に発信する中で、存在意義が明確になった
コクー株式会社の入江雄介さんは、「自分たちがイキイキと働くこと(for me)が、真の顧客満足(for you)につながる」という考えを、「for me, for you.」というスローガンに込めたと話しています。その後の変化を振り返った言葉です。
最初から完成した言葉があったのではなく、事業を続けながら社外に発信し、共感した人が加わっていく中で、存在意義がはっきりしていったという順番です。パーパスの言葉が途中で加わったり言い直されたりしている会社でも、それだけで一貫性がないとは言えません。 見ておきたいのは、変わった理由を経営者が説明できるかどうかでしょう。
存在意義を「必要とされ続けること」と結びつける
株式会社ハッピースマイルの佐藤堅一さんは、経営理念やミッションの軸を「ファンを増やす」ことに置いていると話したうえで、その根底にある考えをこう語っています。
存在意義を、掲げる理想としてだけでなく、顧客や市場から必要とされ続けているかという事実で確かめる見方です。読む側にとっても、その会社が誰から、なぜ必要とされているのかを考えることは、パーパスの中身を確かめる近道になります。 手順2の「誰の、何を、どう変えるのか」と重ねて読むと、言葉と事業のつながりがいっそう見えやすくなるはずです。
2人の話を並べてみると、存在意義は一度掲げて終わる言葉というより、事業を続けながら確かめ直していく言葉として語られているように私たちには見えます。熱狂ベンチャーナビが経営者本人に聞いているのは、会社を始めた理由や大切にしている考え方、それを社内でどう使っているかといった話です。存在意義をどんな出来事と結びつけて語るかは経営者ごとに違い、そこに会社の考え方がにじみます。
パーパス経営に関するよくある質問
パーパスとミッションの違いは何ですか?
一般に、パーパスは「会社がなぜ存在するのか」、ミッションは「会社が果たすべき使命」を指して使われますが、重なりが大きく、広く決まった使い分けがあるわけではありません。 日本政策金融公庫の「創業の手引」もミッションの中身に「使命や存在意義」を挙げており、本記事で確認した公的資料の範囲では、2つを区別して定めた定義は見当たりませんでした。ミッションの中に存在意義を書き込み、パーパスという言葉を使わない会社もあります。応募先がどちらの言葉で何を表しているかは、理念のページや社長メッセージで確かめてください。
パーパス経営は上場企業だけのものですか?
上場企業に限った考え方ではありません。 東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードは上場会社向けの定めで、しかも2026年7月版の本文には「パーパス」という語自体が見当たりません。中小企業庁「2025年版中小企業白書」は、従業員43名の製缶会社が全社員を巻き込み、社員が働く意味と会社の存在意義・価値を定義するMVVを約1年かけて作り上げた事例を紹介しています。規模にかかわらず、存在意義を言葉にして経営に生かそうとする会社はあります。
参考:東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード(2026年7月版)」
参考:中小企業庁「2025年版中小企業白書 第2部第1章第2節 経営の透明性・開放性」
パーパスは一度決めたら変わらないものですか?
変えてはいけないと決まっているわけではありません。 人材版伊藤レポート2.0は、CEO・CHROが、自社が社会・環境にどのようなインパクトをもたらすべきかという観点から、企業理念や企業の存在意義を「再考する」ことを取り組みとして挙げています。事業を続けるなかで存在意義がより明確になったと語る経営者もいます。言葉が変わったときは、変わった理由を経営陣が説明しているかを見てください。
参考:経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~人材版伊藤レポート2.0~」
パーパス経営をしている会社は働きやすいのですか?
パーパスを掲げているかどうかだけでは、働きやすさは判断できません。 中小企業庁「2025年版中小企業白書」によると、帝国データバンク「令和6年度中小企業の経営課題と事業活動に関する調査」に回答した事業者のうち、従業員への経営理念・ビジョンの共有に取り組んでいる事業者では、直近3年間に採用した従業員の定着割合が「7割以上」と答えた割合が52.6%で、取り組んでいない事業者の48.5%をやや上回りました。ただしこれは経営理念・ビジョン全般の共有についての事業者側の回答で、パーパスに限った数字でも、因果関係を示すものでもありません。働きやすさは、労働時間や評価の仕組みとあわせて確かめましょう。
参考:中小企業庁「2025年版中小企業白書 第2部第1章第2節 経営の透明性・開放性」
パーパス・ウォッシュとは何ですか?
掲げたパーパスが実際の経営や行動と結びついておらず、言葉だけが先に立っている状態を指して使われる言葉です。 本記事で確認した公的資料(人材版伊藤レポート2.0、コーポレートガバナンス・コード2026年7月版)には出てこない言葉で、一般にこうした意味で使われています。外から見分けるには、パーパスを決めた経緯や決めてから社内で変わったことを経営陣が具体的に説明できるか、評価や表彰の仕組みに表れているか、社員が自分の仕事に引きつけて語れるかを確かめるのが近道です。
参考:経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~人材版伊藤レポート2.0~」
参考:東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード(2026年7月版)」
まとめ
パーパス経営とは、会社が社会の中で何のために存在するのかという存在意義(パーパス)を言葉にし、経営判断の軸に置く経営のことです。本記事で確認した公的資料の範囲では、言葉そのものを定めた定義は見当たりませんでしたが、経済産業省の人材版伊藤レポート2.0は、存在意義を明確にしたうえで経営戦略と人材戦略をつなげること、社会や環境への貢献をステークホルダーに説明することを経営陣の取り組みとして挙げています。東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コード(2026年7月版)も、パーパスという語こそ使わないものの、上場会社に会社としての価値観を示し、行動準則を定めて実践するよう求めています。
パーパスはミッションと重なりが大きく、パーパスを最上位に置く会社、ミッションの中に存在意義を書き込む会社、理念と並べて掲げる会社と、並べ方はさまざまです。就活や転職で読むときは、書かれている場所を探し、「誰の、何を、どう変えるのか」に言い換え、自分の仕事とのつながりを想像してみてください。形だけかどうかは、経営陣が決めた経緯と決めてからの変化を説明できるか、評価や表彰に表れているか、社員が日々の仕事の中で使っているかに表れます。
取材の帰り道に編集部で話題になるのは、たいてい会社の存在意義そのものより、それを決めるまでに社内で何が起きたかという話です。気になる会社があれば、パーパスの一文の手前にある経緯を、説明会や面接で一度尋ねてみてください。
共感できる会社に出会うには、比べる会社の数を増やすのも一つの手です。いまの経験で応募できる会社の中に、考え方の合いそうなところがどれだけあるかは、転職エージェントに相談すると見通しが立ちます。

