ポータブルスキルとは?9要素の一覧と例|見える化ツールと棚卸しの手順

ポータブルスキルとは、職種の専門性以外に、業種や職種が変わっても持ち運びができる職務遂行上のスキルのことです。厚生労働省は、これを「仕事のし方」と「人との関わり方」の9要素で整理しています。
意外なことに、人との関わり方は役職では測られません。後輩に日頃から助言しているなら、役職がなくても部下マネジメントの力に数えられるのです。
この記事では、9要素の一覧と例、テクニカルスキルとの違い、見える化ツールの使い方、ジョブ・カードで棚卸しする手順を整理します。
棚卸しで言葉になった強みは、求人と照らし合わせて初めて使い道が見えてきます。自分のスキルがどんな求人で評価されるかは、転職エージェントを活用すれば無料で確認できます。
ポータブルスキルとは「仕事のし方」と「人との関わり方」のこと
ポータブルスキルを理解するうえで、押さえておきたいのは次の3点です。
- 厚生労働省の定義は「職種の専門性以外に、業種や職種が変わっても持ち運びができる職務遂行上のスキル」
- 見える化ツールは、専門技術・専門知識を除いた2つの領域の9要素を測っている
- テクニカルスキル(専門知識・技術)とは、職種を変えたときに持ち運べる範囲が違う
ポータブルスキルは、一般社団法人人材サービス産業協議会(JHR)が開発した考え方です。厚生労働省はこれをもとに、ポータブルスキルを測定して活かせる職務・職位を示す「ポータブルスキル見える化ツール(職業能力診断ツール)」を公開しています。
中身は「仕事のし方(対課題)」と「人との関わり方(対人)」の2つの領域に分かれます。 厚生労働省の説明によると、仕事のし方は仕事の前工程から後工程のどこが得意かを見るもの。人との関わり方は、マネジメントだけでなく、経営層や上司、お客様など全方向の対人スキルを見るものです。
ツールの土台は、厚生労働省の「職業能力評価基準」です。仕事に必要な「知識」「技術・技能」と「成果につながる職務行動例(職務遂行能力)」を、業種別、職種・職務別に整理した公的な基準で、ツールはこのうち経理や人事などの事務系ホワイトカラー職種の定義文からポータブルスキルを抽出しています。実際の職務の記述から組み立てられた物差しだという点が、このツールの特徴です。
テクニカルスキル・社会人基礎力との違い
ポータブルスキルと並べて語られることの多いテクニカルスキルは、職種ごとの専門知識や技術を指す言葉です。 職業能力評価基準の区分でいえば、「知識」と「技術・技能」に近い部分にあたります。
ここで押さえておきたいのは、専門知識も「持ち運べない力」ではないという点です。 厚生労働省の活用教材によると、ポータブルスキルはもともと「専門技術/専門知識」「仕事のし方」「人との関わり方」で構成され、会社や業種・職種が変わっても通用する能力とされています。そのうえで見える化ツールは、専門技術・専門知識を除いた2つを、職種が変わっても通用するスキルとして定義しました。同じ職種のまま会社や業界を移るなら専門知識も生き、職種そのものを変えるときに頼りになるのが9要素、と整理すると分かりやすいでしょう。
| 観点 | ポータブルスキル(見える化ツールの9要素) | テクニカルスキル(専門知識・技術) |
|---|---|---|
| 中身 | 仕事のし方と人との関わり方 | 職種・職務ごとの知識と技術・技能 |
| 例 | 情報を集めて分析する、利害を調整して合意をつくる | 会計の知識、プログラミング言語、機械の操作 |
| 職種を変えたとき | 持ち運べる | 同じ職種なら生きるが、職種を変えると使えない部分が出る |
| 示し方 | 資格では測りにくく、経験と結びつけて示す | 資格や検定で示せるものが多い |
厚生労働省も、業種や職種を超えた移動には、専門知識・専門技能だけでなくポータブルスキルの考え方が必要だとしています。専門知識と、仕事の進め方・関わり方は、分けて棚卸しするのが基本です。
「社会人基礎力」のように、働くうえで土台になる力をまとめた枠組みはほかにもあります。そのなかでポータブルスキルの9要素は、職業能力評価基準の職務・職位と結びつけて整理されているため、異動や転職で「どの職務に持っていけるか」を考える場面で使いやすい言葉です。
参考:厚生労働省「ポータブルスキル見える化ツール(職業能力診断ツール)」
参考:厚生労働省「職業能力評価基準」
ポータブルスキル9要素の一覧と、それぞれの意味
厚生労働省は、9つの要素それぞれに説明文と、到達度を測る物差し(測定尺度)を定めています。
- 仕事のし方は、現状の把握・課題の設定・計画の立案・課題の遂行・状況への対応の5つ
- 人との関わり方は、社内対応・社外対応・上司対応・部下マネジメントの4つ
- それぞれに5段階のレベル定義があり、役職とは別に到達度を測れる
- 厚生労働省の教材には、経験と要素を結びつけた例が載っている
| 区分 | 要素 | 厚生労働省の説明 | 到達度を測る物差し |
|---|---|---|---|
| 仕事のし方 | 現状の把握 | 取り組むべき課題やテーマを設定するために行う情報収集やその分析のし方 | 情報収集の範囲 |
| 仕事のし方 | 課題の設定 | 事業、商品、組織、仕事の進め方などの取り組むべき課題の設定のし方 | 解決困難度から見た課題のレベル |
| 仕事のし方 | 計画の立案 | 担当業務や課題を遂行するための具体的な計画の立て方 | 関係者の影響範囲 |
| 仕事のし方 | 課題の遂行 | スケジュール管理や各種調整、業務を進めるうえでの障害の排除や高いプレッシャーの乗り越え方 | 課題の遂行方法の新規性 |
| 仕事のし方 | 状況への対応 | 予期せぬ状況への対応や責任の取り方 | 意思決定のレベル |
| 人との関わり方 | 社内対応 | 経営層・上司・関係部署に対する納得感の高いコミュニケーションや支持の獲得のし方 | コミュニケーション相手の属性 |
| 人との関わり方 | 社外対応 | 顧客・社外パートナー等に対する納得感の高いコミュニケーションや利害調整・合意形成のし方 | コミュニケーションの目的 |
| 人との関わり方 | 上司対応 | 上司への報告や課題に対する改善に関する意見の述べ方 | コミュニケーションの複雑性 |
| 人との関わり方 | 部下マネジメント | メンバーの動機付けや育成、持ち味を活かした業務の割り当てのし方 | マネジメントの責任範囲 |
仕事のし方の5要素は、仕事の流れのどこが得意かを見る
5つの要素は、情報を集めて課題を決め、計画を立てて進め、想定外の事態に対処するという仕事の流れに沿って並んでいます。 前工程の現状の把握や課題の設定で力を出す人もいれば、後工程の課題の遂行や状況への対応で頼られる人もいるはずです。
レベル定義を見ると、各要素で何が「上の段階」とされているかが分かります。現状の把握なら、レベル1の「担当業務に必要な情報を収集している」から、レベル5の「業界全体の情報を収集し、自社に与える影響を多角的に分析している」まで、集める情報の範囲が広がっていく構成。課題の設定はレベル1が「自ら課題を設定することはない」、レベル5が「前例がなく、自ら仮説を立てて解決策を導き出すような問題を扱っている」です。
物差しは、役職の高さとは別に見るものです。 日々の仕事への向き合い方を見直したいときは、成長が早い人の特徴9選も参考になります。
人との関わり方の4要素は、社内外の全方向を見る
人との関わり方は、管理職かどうかではなく、誰とどんな目的でやり取りしているかで測られます。 社内対応は、所属する部署の人への業務連絡(レベル1)から、他部署の人と新たな価値を生み出すためのコミュニケーション(レベル5)まで。社外対応は、情報交換、連絡や調整、合意を得るための交渉や折衝へと、やり取りの目的で段階が上がります。
上司対応は、直属の上司へのこまめな報告・連絡・相談がレベル1、経営層への課題と改善策の提案がレベル5。部下マネジメントは、同僚や後輩への助言から、進捗管理をしながらの指導、部下の育成、権限の委譲へと続きます。役職がなくても、後輩に日頃から助言しているなら、レベル2の「同僚や後輩に、助言を行っている」に当たるのです。 部下や後輩との関わり方は、部下を育てる叱り方と指導方法もあわせてどうぞ。
厚生労働省の教材に出てくるポータブルスキルの例
厚生労働省の活用教材や活用事例には、具体的な経験と要素を結びつけた例が載っています。経歴ごとに並べると次のとおりです。
| 相談者の経歴 | 語られた経験・診断の内容 | 結びつけられた要素・職務 |
|---|---|---|
| 品質保証や生産管理の現場と管理職 | 自分の足で現場を観て回り、関係者の思いや考えを聴いて、推論した問題点のほかにも大事なことを見つけた | 現状の把握 |
| 総合商社で広告を担当 | 社外のステークホルダーとの調整が多く、業務の前に現状を調査している | 調整能力、現状の把握 |
| オフィス移転を担当 | 新オフィスへの移転で、社内のスケジュール調整や業者との交渉を行った | 計画の立案 |
| マネジメント経験がある | 一人ひとりの目標設定に合わせて仕事を割り振った | 部下マネジメント |
| 長年の営業部長 | 診断でマーケティング、営業、広告、広報、人事・人材開発が近い職務として出た | 広告の職務で部下マネジメントが活かせそう |
表の上4つの例はどれも、職種の名前ではなく「何をどう進めたか」「誰とどう関わったか」で経験を語っています。 経理や営業という看板をいったん外して言い直すと、別の職務とのつながりが見えてくるはず。9要素は、そのための共通の言葉です。
参考:厚生労働省「ポータブルスキル見える化ツール キャリアコンサルタント等支援者向け活用教材」
参考:厚生労働省「ポータブルスキル見える化ツール活用動画【参考資料】活用事例全文」
業界や職種を変えても生きた力を、経営者の言葉で読む
私たちが取材で経営者に前職の話を聞いていると、業界も職種もまるで違うのに、仕事の進め方だけは前の会社のころから変わっていないと感じることがよくあります。3人の言葉を、9要素に照らして読んでみましょう。
株式会社ハタメタルワークスの畑敬三社長は、繊維関連の商材を扱う商社に勤めたのち、家業を三代目として継ぎ、銅加工を主力に据えて事業を伸ばしてきました。商社時代に学んだことで経営に役立っていることを聞くと、答えはこうでした。
扱うものが繊維から金属加工に変わっても、誰が何を求めているかを集めて判断の材料にする姿勢は持ち越されています。9要素でいえば、取り組むべき課題を決めるための情報収集、つまり現状の把握にあたる力です。
株式会社オルアナの岸本拓也社長は、SIerで15年間、課題解決型のコンサルティング営業を続けたあと、スタートアップでの新規事業開発を経て独立しました。若手時代の経験がいまの事業につながっているかを尋ねると、こう話しています。
関係をつくって課題を聞き、提案を受け入れてもらうまでの一連の動きは、社外対応と課題の設定を順番につないだ形になっています。扱うテーマがシステムから新規事業開発に変わっても、仕事の骨格は変わっていないのです。
株式会社Massive Actの高萩遼介社長は、新卒で入ったデジタルエージェンシーでアカウントプランナーを務め、外資系コンサルティングファームを経て起業しました。コンサルティングファーム時代の経験がいまどう生きているかを、次のように振り返っています。
ステークホルダーとの合意形成は、厚生労働省が社外対応の説明に挙げている「利害調整・合意形成」と重なります。 会社員として身につけた進め方が、経営者になってからも「型」として使われ続けている例です。
熱狂ベンチャーナビでは、ほかにも業界を移って起業した人や家業を継いだ人に、前の仕事で何を身につけ、いまどう使っているかを聞いています。経歴の違う人の話を何本か読み比べると、職種名の外側にある仕事の進め方の輪郭がつかみやすくなるはずです。
ポータブルスキル見える化ツールの使い方と、結果の読み方
ポータブルスキル見える化ツールは、厚生労働省のページから職業情報提供サイト(日本版O-NET)「job tag」内のツールに進んで使います。押さえたいのは次の3点です。
- 入力するのは「持ち味」と「レベル」の2つ
- 結果には、近い5つの職務・職位とレーダーチャートが表示される
- 結果は適性の判定ではなく、振り返りの材料として読む
ツールが想定しているのは、特にミドルシニア層のホワイトカラー職種の人が、キャリアチェンジやキャリア形成を進める場面。キャリアコンサルタントなどの支援者が、相談の場で一緒に使うことを前提に作られている点も知っておきたいところです。
入力するのは「持ち味」と「レベル」の2つ
STEP1は持ち味の入力です。9つの要素に合計29点を割り振り、得意だと思う要素ほど高い点をつけます。 各要素の最低点は1点なので、自由に配分できるのは残りの20点。配分に迷ったら、まずすべての要素に3点ずつ置き、得意なものに加点、不得意なものから減点して調整し、最後に合計が29点になっているかを確かめる、という手順が案内されています。
STEP2はレベルの入力です。9つの要素それぞれについて、自分に当てはまると思うレベルを1〜5から選びます。複数のレベルに当てはまる場合は一番高いレベルを選び、現在の役職に関わらず、自分が発揮していると考えるレベルを設定します。 レベルの大まかな目安は次のとおりです。
| レベル | 目安 |
|---|---|
| 1 | 上司の指示に従って補助的業務を遂行するレベル |
| 2 | 担当者として定型的業務を遂行するレベル |
| 3 | グループやチームの中心メンバーレベル |
| 4 | 中小規模組織の責任者もしくは高度専門職レベル |
| 5 | 大規模組織の責任者もしくは最高度の専門職レベル |
点数の配分は自己評価そのものなので、「なぜこの要素に高い点をつけたのか」を説明できる経験を思い出しながら入力すると、結果を読むときの手がかりになります。 活用教材も、点数をつけた理由や背景を語ってもらい、経験と結びつけるよう支援者に勧めています。
結果には、近い5つの職務・職位とレーダーチャートが出る
STEP3で表示される結果の比較相手は、職業能力評価基準でホワイトカラー職種として整理されている19の職務と、6つの職位を掛け合わせた114の職務・職位です。職務には経営戦略、人事・人材開発、経理、営業、マーケティング、広告、ロジスティクス管理、貿易などがあり、職位はスタッフからシニアマネージャー、シニアスペシャリストまでの6区分。入力から算出した9要素の比率構成が近いものから、5つの職務・職位が表示されます。
結果画面では、表示された職務・職位に求められる構成と自分の構成が、「仕事のし方」「人との関わり方」ごとにレーダーチャートで重ねて示され、職務の説明もあわせて表示される仕組みです。job tagの「職業能力チェック」に進めば、提示された職務・職位の詳しい職務内容を確かめ、自分ができているかどうかをチェックすることもできます。
結果は適性の判定ではなく、振り返りの材料として読む
ツールの結果は、向いている職種を判定するものではありません。 厚生労働省の「診断結果の見方」には、「この診断は、あなた自身が思うポータブルスキルの相対的な得意・不得意をもとにしたものであり、職種への適性を判定するものではありません」と明記されています。活用教材も、結果をあくまで適職の目安として見るよう求めています。
診断の対象はポータブルスキルだけで、専門能力や興味・価値観は踏まえていません。思ってもみなかった職務・職位が出ることもあり、専門能力を生かせる職種や、興味・価値観が合う職種までは分からないのです。
厚生労働省の活用事例では、転職アドバイザーが相談者に「結果はあくまで参考程度に捉えましょう」と伝え、なぜその点数をつけたのか、根拠となった事実や体験を振り返るよう促しています。意外な職務が出たときは、外れと切り捨てずに、どの要素の重なりでその職務が出てきたのかをレーダーチャートで確かめてみてください。
参考:厚生労働省「ポータブルスキル見える化ツール 診断結果の見方」
参考:厚生労働省「ポータブルスキル見える化ツール キャリアコンサルタント等支援者向け活用教材」
ジョブ・カードでポータブルスキルを棚卸しする手順
ジョブ・カードは、厚生労働省が「生涯を通じたキャリア・プランニング」と「職業能力証明」のツールとして位置づけている書式です。ウェブサイト「マイジョブ・カード」で作成でき、様式はPDFやExcelでもダウンロードできます。棚卸しの順番は次のとおりです。
- 職務経歴シートに、果たした役割と貢献まで書く
- 経験を9要素の言葉に置き換え、物差しで範囲を書き添える
- 実践的能力証明シートで、強みと経歴を結びつける
在職者向けには、職務経歴シート(様式2)、職業能力証明シート(様式3-1・3-2)、キャリア・プラン作成補助シート、キャリア・プランシート(様式1-1)の順に作る流れが勧められています。棚卸しにあたるのは最初の2つで、すべてを一度に仕上げる必要はありません。
職務経歴シートには、果たした役割と貢献まで書く
職務経歴シートには、期間、会社名・所属・職名、職務の内容、職務の中で学んだこと・得られた知識・技能等を書く欄があります。様式の注意事項は、職務の内容欄に、従事した職務の内容とともに、できる限り果たした役割や貢献したことを書くよう求めています。
ポータブルスキルが表れるのは、この「役割と貢献」の部分です。 「会議資料の作成」とだけ書けば作業の名前で終わりますが、「出席する部署ごとに論点を事前に聞き取り、資料の構成に反映した」まで書けば、現状の把握や社内対応を示す材料に変わります。
経験を9要素の言葉に置き換え、物差しで範囲を書き添える
書き出した経験は、9要素のどれに当たるかで仕分けます。前に挙げたオフィス移転の例では、支援者が段取りを計画的に進めた点を「計画の立案」に結びつけていました。業者との交渉は社外対応とも読めるように、ひとつの経験が複数の要素にまたがることも珍しくありません。
仕分けたら、到達度の物差しで範囲を書き添えます。計画の立案なら物差しは「関係者の影響範囲」なので、担当業務の計画か、チームや部署の計画か、他部署にも影響する計画かを明記します。社内対応なら、相手が所属部署か他部署か、合意を得るための交渉まで担ったかを書いておきましょう。同じ「調整をしました」でも、物差しに沿って書けば、読み手は任せられる仕事の範囲を想像しやすくなります。
まとめた内容は「職務の中で学んだこと、得られた知識・技能等」の欄へ。専門知識や技術と、仕事の進め方・関わり方を分けておくと、職種を変える応募で使える部分がはっきりします。 免許・資格や学習歴は職業能力証明シートに整理しましょう。
実践的能力証明シートで、強みと経歴を結びつける
ジョブ・カード準拠様式の「実践的能力証明シート」も使えます。ホワイトカラー分野の社会人向けシートには、情報収集力、課題発見力、企画力、関係構築力、調整力など20の能力が並び、強みに○、特に自信がある最大2つに◎をつけて、発揮した経歴の番号を書き添える形式です。マイジョブ・カードは、ここで明らかにした能力が就職活動や社内の人事面接でのアピールポイントになると説明しています。応募書類の言葉に落とし込むときは、自己PRのエピソードの探し方と書き方も参考になります。
参考:厚生労働省「ジョブ・カード制度」
参考:厚生労働省「マイジョブ・カード 在職者の方へ」
参考:厚生労働省「マイジョブ・カード ジョブ・カード様式のダウンロード」
ポータブルスキルの棚卸しから考えるキャリアプランの例
棚卸しの結果をキャリアプランにつなげるときは、ジョブ・カードの「キャリア・プラン作成補助シート」の順番が使えます。
- 振り返る:印象に残っている経験と、仕事を選ぶうえでのこだわりを書く
- 強みと弱みを決める:生かしたい強みと改善したい弱みを最大5つずつ選ぶ
- 周りと生活を確かめる:周囲からの期待と、仕事と両立させる事項を書く
- 計画にする:5年後や10年後など時期とともに、やりたい仕事と取り組むことを書く
| 段階 | 補助シートの主な欄 | ポータブルスキルの使いどころ |
|---|---|---|
| A 振り返る | ライフラインチャート、印象に強く残っている経験・出来事(3つ以上を順位付け)、仕事を選ぶうえでのこだわり | 経験ごとに、発揮した要素を書き添える |
| B 強みと弱みを決める | 強みと弱みの自己評価、生かしたい強みと改善したい弱み(各最大5つ) | 点数の高かった要素を、生かしたい強みの候補にする |
| C 周りと生活を確かめる | 上司・同僚・部下・顧客・取引先・友人・家族からの期待、仕事と両立させるプライベートの事項 | 頼られている場面がどの要素かを確かめる |
| D 計画にする | 将来取り組みたい仕事や働き方(5年後、10年後、20年後など)、これから取り組むこと(いつ何をするか) | 伸ばしたい要素と、目指すレベルを書く |
補助シートに書いた内容は、ジョブ・カードの様式であるキャリア・プランシート(様式1-1)に転記できます。
キャリアの計画を自分で立てたいと考える正社員は、多数派です。 常用労働者30人以上の事業所で働く人を対象にした厚生労働省の令和7年度能力開発基本調査では、正社員の32.0%が「自分で職業生活設計を考えていきたい」、33.8%が「どちらかといえば、自分で職業生活設計を考えていきたい」と答えました。合わせて約3分の2。職業生活設計は、平たく言えば自分の職業人生の計画のことです。
経理部長の事例をキャリア・プランシートに当てはめた例
厚生労働省の活用教材には、経理一筋の経理部長が、管理部門の縮小にともなう早期退職募集をきっかけに転職を決めた例が載っています。経理以外にも興味はあるものの、適性があるかは分からないという状態でした。ツールで棚卸しをしたあと、キャリアコンサルタントは広報や総務、人事にキャリアを広げる道を示し、これまでより規模の小さい企業で、経理に加えてそれらも担う総務部長の求人を紹介しました。この事例を仮にキャリア・プランシートの欄に当てはめると、次のような形になります。
| キャリア・プランシートの欄 | 書く内容の例 |
|---|---|
| 価値観、興味、関心事項等 | 経理以外の職種にも関心がある |
| 強み等 | 経理の専門知識と、ツールで高く出た要素を分けて書く |
| 将来取り組みたい仕事や働き方等 | 経理に加えて広報・総務・人事も担う、管理部門の責任者として働く |
| これから取り組むこと等 | 広報や人事の職務内容をjob tagの職業能力チェックで確かめ、足りない知識を学ぶ |
| その他 | 応募書類でポータブルスキルの強みをどう伝えるかを、キャリアコンサルティングで相談したい |
キャリアプランは、一度書いたら終わりではありません。 活用教材にも、前回の診断結果と比べて伸びた要素を振り返る使い方が紹介されています。節目ごとに点数とレベルを付け直すと、伸びた力と伸び悩んでいる力が見えてきます。
参考:厚生労働省「令和7年度「能力開発基本調査」の結果を公表します」
公的な窓口で、キャリアコンサルティングを無料で受ける
ポータブルスキルの棚卸しは一人でも進められますが、第三者と話しながらのほうが経験を言葉にしやすくなります。活用教材も、質疑応答をしながら入力することで自己理解が深まるとしています。
- 全国の支援センターとハローワーク内の相談コーナーなら、ジョブ・カードをもとに無料で相談できる
- 勤め先に相談のしくみがあるとは限らず、実際に相談した正社員は14.8%にとどまる
- 相談相手のキャリアコンサルタントには、法律で守秘義務が課されている
全国の支援センターとハローワークで、60分の相談を無料で受けられる
厚生労働省の委託事業「キャリア形成・リスキリング推進事業」では、全国47か所のキャリア形成・リスキリング支援センターと、全国のハローワークに置かれたキャリア形成・リスキリング相談コーナーで、ジョブ・カードを活用したキャリアコンサルティングを無料で実施しています。主な条件は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 費用 | 無料 |
| 所要時間 | 60分 |
| 方法 | 対面またはオンライン |
| 対象 | 在職労働者と求職者。学生は学内のキャリアセンターや進路指導部などに相談 |
| 事前の準備 | ジョブ・カードを作成してから受ける。書けるところまででよい |
| 注意点 | 職業紹介は行っていない |
すぐに申し込むのは不安という人向けに、キャリアコンサルタントがアバターに扮して話を聞く「プレキャリコン」も用意されています。棚卸しで作ったジョブ・カードを持ち込めば、そのまま相談の材料になります。
参考:厚生労働省「キャリア形成・リスキリング推進事業 個人の方」
参考:厚生労働省「マイジョブ・カード 無料のキャリアコンサルティングを活用する」
勤め先に相談のしくみがあるとは限らない
厚生労働省の令和7年度能力開発基本調査によると、正社員に対してキャリアコンサルティングを行うしくみがある事業所は48.4%でした。令和6年度にキャリアコンサルティングを受けた正社員は14.8%です。一方、キャリアコンサルタントによる相談を利用したいとする正社員は、費用負担なく社内で利用できるなら33.4%、費用負担なく社外で利用できるなら22.6%、費用を負担してでも社外で利用したいが1.9%で、合わせて57.9%にのぼります。利用したい人と、実際に相談した人の間には開きがあるのです。
キャリアに関する相談が役に立ったとした正社員が挙げた内容は、「仕事に対する意識が高まった」45.9%が最も多く、「上司・部下との意思疎通が円滑になった」31.9%、「自分の目指すべきキャリアが明確になった」31.5%、「自己啓発を行うきっかけになった」27.1%、「現在の会社で働き続ける意欲が湧いた」23.5%と続きます。いずれも複数回答です。上位に並ぶのは、いまの仕事への向き合い方やキャリアの見通しに関わる内容でした。

参考:厚生労働省「令和7年度能力開発基本調査 調査結果の概要」
キャリアコンサルタントには、法律で守秘義務がある
同じ調査で、キャリアに関する相談をした正社員に相談先を聞くと、「職場の上司・管理者」が69.5%で最多でした。ただ、上司には話しにくいこともあるでしょう。外の相談相手になるキャリアコンサルタントは、登録制で5年ごとに更新する名称独占の国家資格で、職業能力開発促進法は秘密の扱いを次のように定めています。
相談の仕事で知った秘密を外に漏らしたり、無断で使ったりしてはいけない、という意味です。これは努めればよいという努力義務ではなく、守らなければならない義務で、キャリアコンサルタントでなくなったあとも続きます。 社内では切り出しにくい転職の迷いのような話ほど、外の専門家に持ち込む意味があります。
参考:厚生労働省「キャリアコンサルティング・キャリアコンサルタント」
参考:e-Gov法令検索「職業能力開発促進法」
ポータブルスキルに関するよくある質問
ポータブルスキルの9要素とは何ですか?
厚生労働省の見える化ツールが定める、仕事のし方の5要素と人との関わり方の4要素です。 仕事のし方は現状の把握、課題の設定、計画の立案、課題の遂行、状況への対応。人との関わり方は社内対応、社外対応、上司対応、部下マネジメントで、それぞれに5段階のレベル定義があります。
「ポータブルスキル」を言い換えると何ですか?
「職種が変わっても持ち運べる、仕事の進め方と人との関わり方」と言い換えると、厚生労働省の定義に沿った意味になります。 活用教材の言葉では、業種や職種が変わっても通用する、持ち出し可能な能力です。
ポータブルスキルは資格で証明できますか?
資格だけで証明するのは難しい力です。 厚生労働省の活用教材は、人事や経理などのホワイトカラー職種では知識・技能よりもコンピテンシーが問われるため、資格で職業能力を測るのは難しいと説明しています。ジョブ・カードの職務経歴シートや実践的能力証明シートで、発揮した場面と結びつけて示すのが現実的でしょう。
ポータブルスキル見える化ツールは一人で使ってもいいですか?
厚生労働省のページからjob tagに進めば一人でも利用でき、活用教材によるとjob tagは無料で検索・活用できるサイトです。ただしこのツールは、キャリアコンサルタントなどの支援者が相談の場で使うことを前提に作られています。 結果の読み方に迷ったら、無料のキャリアコンサルティングで、点数をつけた理由から一緒に振り返ってもらう方法があります。
キャリアプランは何年先まで考えればいいですか?
ジョブ・カードのキャリア・プラン作成補助シートは、できれば5年後、10年後、20年後などの時期とともに書くよう案内しています。 遠い先ほど具体的に描くのは難しいため、まず5年後の仕事と働き方を書き、いつ何をするかを決めてから先へ伸ばしていく順番が取り組みやすいはずです。
まとめ
ポータブルスキルとは、厚生労働省の定義で「職種の専門性以外に、業種や職種が変わっても持ち運びができる職務遂行上のスキル」のことです。中身は、仕事のし方の5要素と人との関わり方の4要素。職種ごとの専門知識や技術であるテクニカルスキルとは、職種を変えたときに持ち運べる範囲が違います。
見える化ツールでは、29点の配分と5段階のレベルを入力すると、114の職務・職位から比率構成の近い5つが示されます。ただし結果は職種への適性の判定ではなく、振り返りの材料です。棚卸しは、ジョブ・カードの職務経歴シートに役割と貢献まで書き、経験を9要素の言葉と物差しで言い直すところから。迷ったときは、全国の支援センターやハローワークの相談コーナーで、無料のキャリアコンサルティングも受けられます。
私たちは取材で経営者の経歴を聞くたびに、業界を移っても残っているのは肩書きではなく、情報の集め方や人との向き合い方のほうだと感じてきました。自分の仕事を一度、職種名を外して言い直してみてください。
キャリア形成・リスキリング推進事業のキャリアコンサルティングは職業紹介を行っていないため、言葉になった強みがどの業界・職種の求人で求められているかを確かめる段階では、求人を扱う転職エージェントの手も借りられます。

