【代表インタビュー】Ydk日本橋税理士法人 代表 山口 晴啓

経理人材不足の時代に応える「経理代行サービス」で中小企業の成長を支える
2020年1月に設立されたYdk日本橋税理士法人。代表の山口 晴啓さん(以下、山口さん)は、税理士業界の常識にとらわれない新しいアプローチで、中小企業の課題解決に取り組んでいます。
「会社の経理担当者は、従業員の給料から社長の給料まですべてを把握している特別な存在です。だからこそ、誰にでも任せられるわけではありません」。山口さんは、経理という業務の重要性とデリケートな側面を指摘します。
開業3年目の2022年には、職員10名の組織に成長し、現在は20〜25名規模まで拡大。全国1,733の会計事務所が加盟する経営革新等支援機関推進協議会から「トップ100事務所」として5年連続で選ばれるなど、着実に実績を積み重ねています。その背景には、山口さんが自身の原体験から生まれた「若い人が真っ当に働ける組織をつくりたい」という強い想いがありました。
プロフィール

Ydk日本橋税理士法人
代表社員 山口 晴啓
趣味
猫と過ごすこと
尊敬する人
父
座右の銘
有言実行
学生が読むべき本
「7つの習慣」スティーブン・R・コヴィー
経営者におすすめの本
「タイトル未定。現在執筆中」山口 晴啓
人生で一番熱狂したこと
税理士試験の合格
人材不足の時代が生んだ新たなニーズ「経理代行サービス」

税務・労務から経理まで。包括的なバックオフィス支援を実現
小川:御社の事業について教えてください。
山口さん:当社のグループでは、税理士法人をメインとして、2024年7月24日に社労士法人も設立しました。税務と労務の両面から中小企業をサポートする体制を整えています。
最近、経営者の方々から「経理人材が不足している」「社長自身が経理に追われている」という声を頻繁に聞くようになりました。そこで今年から本格的に経理代行サービスを開始し、経理から税務・労務まで幅広くサポートする体制を構築しています。
他の税理士事務所との違いは、税務申告だけでなく、財務内容の改善やコンサルティング業務も行っている点です。中小企業の成長を促すサービスを提供することで、若い人たちにとっても魅力的な環境をつくっています。
税理士事務所は基本的にクライアントの多くが社長であるため、社長と直接話せる機会が他業界と比べて圧倒的に多い。その環境で働くことは、自身の成長にもつながると考えています。
経理人材の採用難と高齢化が生む新たな市場
小川:経理代行事業を立ち上げた経緯について、詳しく教えていただけますか?
山口さん:社長の方々から「経理担当者が辞めてしまった」「経理人材がなかなか採用できない」という相談を受けることが増えました。最近の求人をみても、経理職の募集は非常に多いですよね。
採用できたとしてもすぐに辞めてしまうケースも多く、バックオフィスの安定を求める声が強くなりました。私たちにとって、バックオフィス業務は普段から行っている得意分野。それならサービスとして展開した方が良いと判断し、事業化に踏み切りました。
会社の経理担当者は、本当にすべてを知っている存在です。従業員の給料も社長の給料も把握しているため、誰にでも任せられる仕事ではありません。社長にとって経理は特別な存在なんです。そのデリケートな部分を、信頼できる税理士に外注できることは大きなメリットになります。実際、お客様からも好評をいただいています。
国税OBの知見が生む圧倒的な強み

税務調査のスペシャリストが支える「確かな回答」
小川:御社の税理士サービスの強みはどこにありますか?
山口さん:当社は法人系のお客様が多いのですが、特に税務調査の分野に強みを持っています。
当社には国税OBの方が在籍しているのですが、この方は税務署で争いになった案件を扱う国税不服審判所の札幌拠点でトップを務めていた方です。全国に12カ所しかない国税不服審判所で、納税者と税務署の意見が対立した際の判断を下す、いわば裁判所のような役割を担っていました。
大手証券会社などの顧問を務めるような税理士の方が、当社に来てくださったんです。この方がいることで、税務署とのやり取りにおいて他社との大きな差別化ができています。
また、全国1,733の会計事務所が加盟する経営革新等支援機関推進協議会から、付加価値提供をする税理士事務所として「トップ100」に5年連続で選ばれています。これは規模ではなく、財務支援やコンサルティング業務など、中小企業に役立つサービスを提供している事務所として評価されたものです。
資格の有無を超えた「本物の安心感」を提供
小川:国税OBの方がいることで、具体的にどのような違いが生まれるのでしょうか?
山口さん:税理士事務所の職員は、意外と資格を持っていない人が多いんです。当社も20〜25名のうち、資格者は3人だけです。
税務の論点で質問されることは際どい内容が多く、資格の有無に関わらず「本当にこの回答で合っているのか」と不安を感じながら対応している人が多いのが実情です。私自身も勤務時代はそうでした。
お客様からすれば、不安な回答を受け取ることは満足できるものではありません。当社では国税OBの方がさまざまな文献を調べ、しっかりとした裏付けのある回答を提供できます。担当者全員が自信を持って回答できる環境があることで、サービスの質を担保し、お客様に気持ちよくサービスを受けていただけています。
社長の人生を変える瞬間に立ち会える仕事

10ヶ月で実現したM&A。奥様の病気と向き合う社長を支えて
小川:これまでで最も印象に残っているエピソードを教えてください。
山口さん:開業して5年半になりますが、開業当初から契約してくださったお客様のことは忘れられません。銀行からみても優良企業で、ずっと続いていくと思っていた会社でした。
ところが、社長の奥様に脳腫瘍がみつかり、1人で外出もできない状況になってしまいました。社長は会社を続けるつもりでしたが、奥様の面倒をみられるのは自分だけ。限られた余命の中で、家族と向き合いたいという思いから、苦渋の決断で会社の売却を決意されました。
その際、真っ先に私たちに相談してくださったんです。「従業員に迷惑をかけずに、良い引き継ぎ先をみつけたい」と。私としても、社長のために早く良い買い手をみつけたいと必死になりました。
M&Aは通常1年、長ければ2〜3年かかるものですが、この案件は10ヶ月で完了できました。しかも良い会社に良い条件で売却でき、社長には本当に感謝していただきました。売却後も、得た資金の運用方法についてご相談いただき、プライベートカンパニーの設立や資産運用のサポートまでさせていただいています。
若い人に伝えたいのは、この業界では社長の人生そのものを変えられるようなサービスが提供できるということです。
中学2年生で決めた税理士への道

父の勧めと相続ドラマが導いた将来の夢
小川:税理士になろうと思ったきっかけはなんですか?
山口さん:実は中学校2年生の頃から税理士になりたいと思っていました。変わっていますよね(笑)。
父が山形県天童市で不動産鑑定士として自営業をしていて、税理士の先生にお世話になっていました。兄が父の会社を継ぐ前提だったので、父から「同じ業界ではなく、兄と協力できる税理士はどうか」と勧められたんです。
当時、数学が好きだったことと、相続関係のドラマが流行っていて、そのドロドロした関係がきれいにまとまる瞬間をみて「税理士は良い仕事かもしれない」と思いました。それから税理士になりたいとずっと言い続けていました。
もともとは山形で兄と一緒にやる予定でしたが、兄から自由にやって良いよという後押しがあったこともあり、2020年に東京で開業しました。始めた直後にコロナ禍となり、かなり大変でしたが。
26歳での合格と父との最後の約束
小川:資格を取得されるまでの道のりはいかがでしたか?
山口さん:26歳で税理士試験に合格し、28歳で登録しました。実務経験が2年間必要なので、下積みは長かったと思います。
実は、26歳で合格した年の5月に父が末期がんで余命2ヶ月と宣告されました。試験は8月、合格発表は12月。スケジュール的に考えれば父が生きているうちに合格するのが不可能な状況でした。そんなときに父から「最後の応援できるチャンスだから、仕事を辞めてでも今年なんとかして合格しろ」と言われ、父から背中を押されることとなり、本当に仕事を辞めて受験しました。
本番ではプレッシャーが凄すぎて手が震えましたが、なんとか合格できました。余命2ヶ月と言われていた父は12月まで生きてくれて、12月12日の合格発表の日に泣きながら報告することができたんです。その後父の体調が悪化し、2週間後に父は亡くなってしまいましたが、父との約束を守ることができたのは本当によかったと思っています。
理不尽な経験が生んだ「真っ当な組織」への想い

父の葬儀で受けた仕打ちが独立の原動力に
小川:最も大変だったエピソードを教えてください。
山口さん:父が亡くなったのは12月29日で、葬儀が1月3日でした。当時働いていた税理士事務所は1月4日から始業だったので、休まざるを得ない状況だったんです。
その旨を所長に連絡したところ、「三が日に電話をかけてくるなんて非常識だ」と叱責され、さらに1月の給与を1ヶ月分支払われませんでした。理由は分かりません。
税理士業界は狭い世界で、所長を務める方々には凝り固まった考えの方が今でも多いのが現状です。若い人の就職先が限られている中、私のように嫌な思いをしている人は多いと思います。
先ほどお話ししたように、税理士は社長さんに良いサービスを提供できる仕事なのに、若い人が嫌な思いをして辞めていく。そういう環境ではなく、一般の会社と同じような真っ当な組織で働きたいと思える環境をつくりたい。それが開業の大きな動機になりました。
若い人が経験しなくても良い苦労を減らしたい
小川:その経験が今の組織づくりに影響しているのですね。
山口さん:私自身、理不尽な経験をたくさんしてきました。でも、みんなが同じような余計な経験をする必要はありません。若い人が真っ当に働ける会社をつくりたいという思いで経営しています。
開業してからも大変なことはたくさんありましたが、ここに至った根底にあるのは、やはりあの経験が一番大きいと思います。
13年後に100人規模を目指す組織づくり

コミュニケーションを重視した働きやすい環境
小川:現在の職場環境について教えてください。
山口さん:開業当初はコミュニケーションに悩むことが多かったため、現在はコミュニケーションを取れる場を意識的に設けています。
マネージャーによる1on1を2週間に1回、週1回の業務進捗確認の会議、そして外部の人による1on1を2ヶ月に1回実施しています。内部の人には言いにくいことも、外部の人になら話せることがあります。そこで出た意見は名前を伏せて私に報告され、1ヶ月後には改善を実施するようにしています。
また、国税OBの方がしっかりと根拠づけて裏付けのあるアドバイスをしてくれるため、経験者の方々からも「安心感がある」と評価をいただいています。自信を持って正しい経験を積み、スキルアップできる環境です。
アグレッシブで元気な若手人材を求めて
小川:今後入社される方に求めることは何ですか?
山口さん:アグレッシブで元気な方に来ていただきたいです。現在は37歳の私と同世代が多く、比較的おとなしい雰囲気の職場になっています。
20代後半の方々がもう少し増えれば、雰囲気も変わってくると思います。自分から仕事を取りに行くような積極的な姿勢の方が来てくれると、良い意味でコミュニケーションが生まれると期待しています。
税理士事務所で、お互いの目標を持ちながら積極的にコミュニケーションを取り合える環境は本当に少ないと思います。当社がそういう理想的な環境になれば最高だと考えています。
AIの時代だからこそ必要とされる税理士の価値

若手税理士のキャリアを支える大型案件と刺激的な環境
小川:税理士資格取得後のキャリアについて、どのようにお考えですか?
山口さん:資格を持っている人は独立を考える傾向が強いのは事実です。一定層は自分でやりたいと思うでしょうし、それは止めようがありません。
ただ、当社にいるからこそ経験できる大型案件があります。1人では経験できないことを提供し続けることで、定着してもらえると考えています。また、刺激し合える環境は1人では築けません。そういう環境を積極的につくることも意識しています。
年収面でも、税理士業界では1,000万円に到達する人は少ないのが現状です。大変な資格を取得したのに見合わないと感じる方も多い。会社として単価を上げ、受注金額を増やす努力をして、高年収を実現できる環境をつくっていきたいと考えています。
100人規模で相続対策まで幅広くサポート
小川:今後の展望について教えてください。
山口さん:13年後に100人規模、売上10〜15億円を目指しています。
サービス面では、経理代行のニーズが高いので、そこでグリップを握り、お客様の集客と定着率を更に上げる取り組みを行っていきます。来年からは江戸川区の地主層とのつながりを活かし、相続対策サービスも展開する予定です。
小規模な税理士事務所が多い中、お客様が安心して長く任せられる企業として、若い人も将来ビジョンがみえる環境で働きたいと思えるような組織をつくっていきます。13年後には、若い方が「ここで働きたい」と言ってくれるような会社にしたいと思っています。
会社概要
会社名 | Ydk日本橋税理士法人 |
HP | https://ydk-nihonbashi.com/ |
設立 | 2020年1月 |
事業内容 | 税理士業務 社労士業務 経理代行サービス 経営コンサルティング |
採用情報 | https://ydk-nihonbashi.com/recruitment/ |
※2025年8月14日時点の情報です。