【対談インタビュー】株式会社CINC Capital 代表取締役会長 石松 友典・取締役 執行役員社長 阿部 泰士

テクノロジーで変革するM&A仲介業界―データとマーケティングが生み出す新たなマッチングの形
M&A仲介業界といえば、どのような働き方をイメージするでしょうか。多くの人が「テレアポと飛び込み営業の毎日」「とにかく足で稼ぐ属人的なビジネス」という印象を持つかもしれません。しかし、「その常識を根本から変えたい」と語るのが、2024年11月に設立された株式会社CINC Capital代表取締役会長の石松 友典さん(以下、石松さん)と取締役 執行役員社長の阿部 泰士さん(以下、阿部さん)です。
東証グロース上場企業である株式会社CINC(東証グロース:4378)の子会社として誕生したCINC Capital。親会社が持つマーケティングとテクノロジーの知見を活かし、従来のM&A仲介業界の課題を解決する独自のアプローチで注目を集めています。
金融業界出身の石松さんが感じた業界の課題感と、M&A仲介業界で10年の経験を積んだ阿部さんが実践してきたノウハウ。二人が描く「テクノロジーとマーケティングで変革するM&A仲介」の未来像について詳しく伺いました。
プロフィール

株式会社CINC Capital
代表取締役会長 石松 友典
趣味
ゴルフ、漫画、経営
尊敬する人
稲盛 和夫
座右の銘
圧倒的No.1
学生が読むべき本
「金持ちお父さん、貧乏お父さん」ロバート キヨサキ
経営者におすすめの本
「ビジョナリーカンパニー」ジム・コリンズ
人生で一番熱狂したこと
上場、CINC Capitalの立ち上げの今。上場させた時のスキームとチームの再結成で確実に成功に導きたい。
株式会社CINC Capital
取締役 執行役員社長 阿部 泰士
趣味
ゴルフ、サッカー、ダーツ
尊敬する人
孫 正義(ソフトバンクグループ創業者)
座右の銘
挑戦なくして成長なし
学生が読むべき本
「7つの習慣」スティーブン・R・コヴィー
経営者におすすめの本
「ゼロ・トゥ・ワン」ピーター・ティール
人生で一番熱狂したこと
2024年CINC Capitalの立ち上げ。市場の課題に真正面から挑み、志を共にする仲間たちと一つの目標に向かって走り出した瞬間。
金融業界出身者が感じたM&A仲介業界の構造的課題

上場後のM&A戦略検討でみえた業界の非効率性
小川:まず、御社がどのような事業を展開されているのか教えてください。
石松さん:当社は2024年11月に設立されたM&A仲介会社です。親会社の株式会社CINCは2014年創業以来、コンサルティングとSaaSツールの開発・提供の両軸で事業を拡大し、2021年に上場しました。
事業としては、CINC Capitalを設立する1年前から、親会社でM&A仲介事業を開始していました。私自身が上場後の成長戦略としてM&Aを検討する中で、さまざまな仲介会社の方とお会いする機会があったのですが、そこで業界の大きな課題を感じたんです。
1つは、私たちが成長していくためにどのような会社を買収すべきかという情報が非常にクローズドな状態であること。もう1つは、担当者が汗水たらして情報収集し、足で稼いでマッチングを行っているという、非常に属人的なビジネスモデルになっていることでした。
マーケティングとテクノロジーが未発達な業界への着目
小川:そうした課題を感じられた背景には、どのような理由があったのでしょうか?
石松さん:M&A仲介業界を調べてみると、テクノロジーの活用がまったく進んでいないことが分かりました。私はもともと金融業界にいたので、M&A仲介業界全体が「足で稼ぐビジネスモデル」に偏重していることに強い違和感を感じていました。
CINCは、マーケティングとテクノロジー、そしてプロフェッショナル領域で急成長してきた会社です。特にマーケティング領域では、テクノロジーをしっかりと導入しなければ成長できない時代になっています。
良い売却先をみつける、良い買収先をみつけるという両軸の作業が完全に属人化されており、とにかくM&Aアドバイザーやテレアポ担当者が足で稼いでいる状態です。ここをマーケティングとテクノロジーで課題解決することで、売りたい会社と買いたい会社が本当に良いマッチングを実現できる業界をつくれるのではないかと考え、CINC Capitalの立ち上げを決めました。
業界経験10年が語る「足で稼ぐ」現実とデータ活用の可能性

30都道府県でセミナー開催。それでも属人的アプローチは脱却できず
小川:阿部さんは長年M&A仲介業界で経験を積まれてきたそうですが、従来のアプローチとCINC Capitalの違いについて教えてください。
阿部さん:これまでずっと「足で稼ぐ」アプローチを実践してきましたが、結局は電話とDMの手法から脱却できていませんでした。私は10年前に日本M&Aセンターに入社し、その後複数の会社を経験してきました。
日本M&Aセンター時代は業界再編に特化した業務を担当し、毎月セミナーを開催していました。1年間で30都道府県を回り、セミナーで集客して案件を獲得するという方法です。どの会社に行っても基本的にやることは同じで、高額なDMを大量に送付したり、電話でセミナー参加を促したり、とにかく訪問と電話の繰り返しでした。
前職では銀行のグループ会社に所属していたため、ブランドの信用力で紹介やアポイントにつながることも多く、学びは大きかったです。ただ、一方で営業手法は電話やDMが中心で、よりお客様に寄り添った新しいアプローチの必要性を強く感じていました。
数万件のM&Aの実績ビックデータが生み出す競合優位性
小川:CINC Capitalでは具体的にどのような強みがあるのでしょうか?
阿部さん:当社の最大の強みは、親会社CINCが持つ「Keywordmap(キーワードマップ)」の技術をもとに独自開発した「CAMM DB(キャムディービー)」というシステムです。石松と出会って「この業界にはマーケティングとテクノロジーが不足している」という話になり、これは大きなチャンスだと感じました。
従来は企業データベース等のリストを基に架電やDMを行う手法が主流でしたが、当社はCAMM DBを活用し、「迅速な提案」「最適なマッチング」を行います。
CAMM DBは、国内企業のホームページをクローリングし、「M&Aを実施しました」「子会社化しました」といった情報を収集しています。上場企業のM&A実績は適時開示で分かりますが、未上場企業の買収実績データベースを網羅的に持っているのは当社だけだと思います。
このデータベースがあるからこそ、新人でも買い手企業のアポイントを月40〜50件取ることができるんです。架電接触率30%、アポイント率10%超えという数字は、通常では考えられない成果ですね。
「世界で一番感謝される営業」M&A仲介の社会的意義

成長戦略からみえていなかった可能性を提案する醍醐味
小川:業界の課題解決に取り組まれているお話を伺いましたが、阿部さんご自身にとって、M&A仲介という仕事の魅力はどこにあると思われますか?
阿部さん:M&A仲介アドバイザーは、世界で一番感謝される営業職だと確信しています。
もともと私はリクルート関連で人材系をやっていたり、その後製薬会社のMRをやっていたり、割とバラバラなキャリアを歩んできました。でも10年間M&A仲介をやってきて思うのは、M&Aのニーズがまったくない企業は、基本的に存在しないということです。モノを売る営業の場合、「欲しくないからいらない」と断られることがありますが、M&Aは買っても売っても正解になり得るビジネスです。
特に買い手企業との関係では、これまで経営企画や社長が思い描いていなかった成長戦略を提案できることに大きなやりがいを感じています。「阿部さんの提案で、こういう会社を買えば成長できることに気づかされた」と言っていただけたときは、心から嬉しい気持ちでいっぱいになります。
異業種M&Aの化学反応が生み出すイノベーション
小川:「思い描いていなかった成長戦略を提案できる」というのは興味深いですね。経営者の方でも考えていない戦略があるということで、具体的にはどのような事例があるのでしょうか?
阿部さん:運輸会社がIT会社を買収した事例があります。その運輸会社はタクシー事業も展開していたのですが、位置情報を活用したアプリを開発するIT会社とマッチングしました。
5年前のことなので、まだタクシー配車アプリなどのサービスが地方にそれほど普及していない時期でした。地方のタクシー会社にITのアプリを導入することで効率性が大幅に向上するという提案をしたところ、「確かにそれは導入したいと思っていたが、買収は考えていなかった」という反応をいただけました。
世の中のM&Aの半分以上が異業種間の取引と言われています。異業種マッチングの強みを活かせば、CINCの技術力を使ってより精度の高い提案ができると考えています。
30年続けた会社を売却する感動の瞬間
小川:売り手企業との関係では、どのような経験をされてきたのでしょうか?
阿部さん:売り手企業との関係では、中長期的な信頼関係の構築が重要です。私がこの業界で10年間やってきて、「失敗した」と言われたことは一度もありません。
30年間続けてきた会社を売却する経営者の方々からは、最後に涙を流しながら感謝していただくことがあります。「阿部さん、本当にありがとう」と言われる営業職は、他にはないと思います。自分のやったことが本当に人の役に立ったと実感できる瞬間は、何にも代えがたい喜びです。
学生も経営者レベルの経験を積める独自の成長環境

インターン生が月40件のアポイントを取れる仕組み
小川:御社では学生インターンを積極的に採用されているそうですが、その理由について教えてください。
阿部さん:現在インターン生5名が在籍していますが、他社とは明確に異なるアプローチを取っています。多くのM&A仲介会社では、インターン生に「とりあえず売り手企業に電話しなさい」と指示し、アポイントが取れたらインセンティブを支払うという方法です。
当社では、インターン生が自分で取得したアポイントであれば、トップ面談まで同席してもらいます。企業の経営者同士が面談で話し合う機会に学生が参加できるというのは、非常に貴重な経験です。今後の就職活動や社会人生活に必ず活かせるでしょう。
また、独自のデータベースがあるため、高いアポイント獲得率を維持しています。これは通常では考えられない成果です。
経営者の本音に触れる貴重な体験
小川:学生にとって、そうした経験にはどのような価値があるのでしょうか。
石松さん:普通の商品を売るのとはまったく違う経験ができます。経営者にとって自分の会社を売却したり買収したりするということは、自分の子どもを誰かに託すぐらいの覚悟を持った決断です。
表向きの経営者の発言とは違う本音の部分で、しっかりとコミュニケーションを取れるという経験は、おそらく一生のうちにそれほど多くはないでしょう。経営者の考え方を理解することで、学生が社会人になったときの営業力や相手の気持ちを理解する力に深みが増すと思います。
未経験者歓迎の3年間成長プログラム

大手では得られないスピード昇進の可能性
小川:中途採用ではどのような方を求めていらっしゃいますか。
阿部さん:基本的に未経験者のみを採用しています。経験者の場合、「1年間アポイント取得をお願いします」と言うと、「私は経験があるのでエグゼキューション(交渉からクロージングまでの手続き)をやらせてください」と言われることが多いんです。
しかし、現在パートナーとして参画している15名は、ほぼ10年選手か業界特化の専門家ばかりです。経験者よりも彼らが担当した方が受注率は確実に高くなります。
当社では明確な3年間のキャリアプランを提示しています。1年目はKPIに沿ったアポイント獲得、2年目は現場でのアドバイザリー契約獲得、3年目はパートナーと一緒に数字を追うという流れです。
小川:入社後、どのくらいの期間でキャリアアップしていけるのか、目安を教えていただけますか?
阿部さん:主任、マネージャー、部長、執行役員という流れで、基本的に3年目ぐらいにはマネージャークラスになってほしいと考えています。
石松さん:ベンチャーの立ち上げ1年目なので、やる気があって責任を積極的に取りたいという人には、いくらでもチャンスがあります。部長のポジションも空いていますし、役員は私しかいないので、ガラ空きの状態です。能力とやる気と適性がある人にとっては、大手企業では得られないキャリアアップの機会があります。
テレアポを通じて磨かれるコミュニケーション能力
小川:入社する人に一番求めていることは何ですか。
阿部さん:まずは行動量です。当社では、1日あたり最低200件(通常は300件前後)の架電を標準としています。決められたKPIを達成したら、基本的に好きなことをやらせてあげるというスタンスですが、最初から考えて動かなければ成功は生まれません。
石松さん:架電は現代の学生があまりやりたがらないことだからこそ、こなせる人は希少性が高く、価値があると考えています。M&A業界は報酬も高いので、他の人がやらないけれど価値の高いことを積極的にやりたいという学生の方が、市場価値は非常に高いと思います。
テレアポを大量にこなすことによって、人間力とコミュニケーション能力が磨かれます。経営者との円滑なコミュニケーションには、この基礎的なスキルが不可欠なんです。
M&Aアドバイザーの「セカンドキャリア」をサポートする未来構想

独立したいアドバイザーのプラットフォーム企業を目指して
小川:今後、どのような会社にしていきたいとお考えですか?
阿部さん:将来的には、M&Aアドバイザーのセカンドキャリアをサポートできる会社になりたいと考えています。
現在は、それぞれが独立して会社を経営しているプロフェッショナルが、CINC Capitalのパートナーとしてエグゼキューションを担ってくれています。
多くは前職のM&A仲介会社数社で共に働いた経験を持つ仲間たちで、M&Aに情熱を持ち続けながら、より自由度の高い環境でお客様本位の支援を実現したいと考えて合流してくれました。
サラリーマン時代にはどうしても「数字優先」の風土が強かったですが、今はお客様の長期的な利益を第一に考えられる体制になっているのが大きな違いです。
独自開発システムで業界全体の効率化を実現
小川:そうした構想を実現するために、具体的に取り組んでいることについて教えてください。
阿部さん:そういった悩みを持った多くのアドバイザーは独立していきますが、1人ではアポイントもない、リソースもない、マッチングもできないという課題があります。そこで当社が、アポイント獲得、概要書作成、マッチングなど、リソースの足りない部分をすべて引き受けています。
当社自身がシステムを開発し、収益化を進め、その実績をもとに、独立後も再現性のある売上創出を支援できることを示していきます。現在、CAMM DB内のクローリングデータのマッチングシステムや、電話業務を効率化するシステムを使って、CINC Capitalとしての事業基盤を強化している段階です。
3年から5年でCINC CapitalのM&A仲介売上を確実に上げ、その後は独立したアドバイザーが当社のシステムを使って、より良いサービスを提供できる環境を整えたいと考えています。
M&A業界の社会的地位向上への貢献
小川:最後に、インターンを考えている学生に対してメッセージをお願いします。
阿部さん:当社では、経営者や役職の高い人と話せるチャンスがあるということを感じてもらえたら嬉しいです。M&Aを知らない人は「難しそう」「よく分からない」と思いがちですが、そうした経験ができる機会として当社のインターンを活用してください。
M&A業界に関心があるけれど躊躇している方にとって、M&A業界に行かなくても、必ず今後役に立つ力が身につきます。自分の力を試したいという人に、ぜひ当社を通じて社会人になってもらいたいと思います。
石松さん:実際に働いてみると、なぜM&A仲介業界の年収が高いのかが理解できるでしょう。当社で経験を積むことで、どれだけ多くの電話・行動・工程が必要なのかを体験できます。
M&A業界に進まなくても、この経験は必ず将来の財産になります。私たちと一緒に、M&A仲介業界の社会的地位向上に貢献していただける方をお待ちしています。
会社概要
会社名 | 株式会社CINC Capital |
HP | https://cinc-capital.co.jp |
設立 | 2024年11月 |
事業内容 | M&A仲介事業 |
採用情報 | https://cinc-capital.co.jp/recruit |
※2025年7月24日時点の情報です。