【代表インタビュー】Do&Do.株式会社 代表取締役 菊池佑太

データ分析とAIを活用し、貯筋トレで組織運営の課題に挑む
データ分析やAIの力を活用し、企業の健康経営に新たな価値を提供するDo&Do.株式会社。「貯筋トレ」というユニークなサービスを通じて、社員が楽しみながら健康習慣を継続できる仕組みを生み出している。
代表取締役の菊池佑太さんは、ヤフー株式会社(現:LINEヤフー株式会社)やAIスタートアップで培った豊富なデータ活用経験を背景に、健康管理に課題を抱える企業と社員の両方に寄り添うサービスを追求。菊池さんに、事業誕生の背景や今後の展望を伺った。
プロフィール

会社名:Do&Do.株式会社
役職:代表取締役
名前:菊池 佑太
趣味:子どもたちと遊ぶこと
尊敬する人:堀江 貴文さん
座右の銘:現状維持は後退
学生が読むべき本:「武士道」新渡戸 稲造
人生で一番熱狂したこと:わが子と真剣に向き合っている中で、子どもの成長を実感したとき
楽しみながら運動習慣を継続できる仕組みで、社員の健康管理を強化


御社の事業について教えてください。
菊池さん:現在私たちが展開しているサービスは、もともと「Do」という名前で提供していたのですが、最近「貯筋トレ」というサービス名に変更しました。「貯筋トレ」は、貯金と筋トレを掛け合わせた名称で、運動しながらポイントを貯められるという二つの目的を同時に満たすサービスです。
このサービスの大きな特徴の一つは、新しい運動習慣を提供することにあります。トレーニングをすると何かしらのリターンが得られるという仕組みをつくることで、運動習慣の継続性を高めています。
特に、企業が「健康経営」を意識することは、社員の満足度を上げたり、離職率を下げたりすることにつながります。社員が健康を保てる環境を整えることで、仕事のパフォーマンスを高めるだけでなく、キャリアのサポートにもつながると考えています。

菊池さんは、今までどのようなキャリアを積まれてきたのでしょうか?
菊池さん: 私は高校を卒業してから大学で知能情報工学を学びました。今でいうAIですね。数学が得意で、それを活かせる仕事に就きたいと考えていましたが、当時は数学を活かせる職業の選択肢が限られており、主に教育分野が中心でした。より幅広い分野で数学を応用できる可能性を求めて知能情報工学を選びましたが、その頃はAI関連の仕事がほとんど存在しない時代でした。
そんな中、大学時代にGoogleがデータを活用して情報を整理する取り組みをしていることを知り、これは将来有望な分野だと直感しました。そこでデータ活用の仕事に興味を持ち、2007年にヤフー株式会社(現:LINEヤフー株式会社)に新卒で入社しました。当時はちょうど、統計データを使ってユーザーの行動履歴を分析し、最適な商品をレコメンドするシステムが発展し始めた頃で、今でいうAmazonや楽天のレコメンデーションシステムに近いものです。この分野にのめり込み、統計を活かした広告の最適化に関わっていきました。
しかし、経験を積む中で、一度訪れたサイトや検索した商品が再び広告として表示されるリターゲティングが中心の広告業界に疑問を持ち始めました。確かに売上を伸ばすうえで欠かせない仕組みではあるものの、これが本質的に社会をより良くすることにつながるのか、葛藤を感じるようになりました。
そこで、これまで培ってきたAIの知識やデータ分析の経験を活かし、社会課題の解決にどのように貢献できるのかを模索する中で、AIを活用したソリューションを提供するスタートアップに転職しました。

そこから、なぜ「貯筋トレ」のサービスを展開しようと思ったのでしょうか?

菊池さん:スタートアップに転職してから半年ほどで、役員を務めることになったのですが、実際に組織を運営する中で、「業績が上がれば社員の幸福度も上がる」という考え方に疑問を持つようになりました。社内のアンケートデータを分析すると、業績が上がるほどミドルマネージャー層のマネジメント負荷が高まり、疲弊する傾向があることがわかったんです。
このような状況が続くと、社員はフラストレーションを溜め込んでしまい、最終的には退職や休職に至るケースが多くなります。そこで、こうした人たちのメンタルケアやフィジカルケアを企業の福利厚生として導入できる仕組みがないかと模索しました。しかし、市場には簡単な産業医サービスやメンタルケアサービスなど、一時かつ部分的なサポートにとどまるものしかなく、根本的な課題の継続的解決には至らないと判断していました。
調べていくうちに、健康的に働くためには「運動・睡眠・食事」の3つが重要だと考えましたが、それらを包括的にサポートするサービスは市場になく、「それなら自分でつくるしかない」と思い、この事業を立ち上げました。

御社が健康に関する課題をどのように捉えており、それに対してどのようなアプローチをしているのか教えてください。
菊池さん:多くの人が健康になりたいと思っている一方で、面倒だと感じて行動に移せないという現実があります。たとえば、誰もが体に良い食事を摂ることが大切だと理解しているはずですが、それでも夜中にカップラーメンが食べたくなることもありますし、ストレスが溜まっている日はこってりしたものを食べたくなることもありますよね。そういった日々の気持ちの変化や生活のバランスがある中で、いかに健康に対する行動のハードルを下げ、誰でも簡単に取り組める方法を提供できるかにフォーカスしています。
そこで、1日20秒だけでも運動をすることでポイントが貯まる仕組みを導入しています。誰でも隙間時間にできる運動をするだけでポイントが貯まるように設計し、それによって楽しく健康への取り組みを続けてもらうことを目指しています。その後、継続的に運動が習慣化するようなプロセスをつくり、データを活用しながら個々の健康状態の変化を可視化するサービスを展開しています。
運動後の変化を可視化し、AI分析で個別最適な健康アドバイスを提供


他の健康支援サービスとはどのように違うのでしょうか?
菊池さん:多くの企業が「歩くとポイントが貯まる」といった単発の健康促進策を取り入れていますが、私たちはもう一歩踏み込んで、運動が実際に健康にどう影響を与えるのかをデータとして証明することを目指しています。
たとえば、運動後に必ず「健康の振り返りチェック」を行い、体調やメンタルの状態を記録してもらうようにしています。そのデータを蓄積し、個人ごとの健康の移り変わりがはっきりと分かるようにしている点が大きな違いです。

健康の振り返りチェックとは具体的にどのようなもので、どういった効果があるのですか?
菊池さん:健康の振り返りチェックとは、運動後に簡単なアンケートに回答してもらう仕組みです。チェック内容には、身体症状やメンタルの状態などが含まれており、運動後に毎回記録することで、健康状態の変化をデータとして可視化できるのが特徴です。
チェック項目は約20種類あり、頭痛、目の疲れ、肩こり、腰痛、膝の痛み、便秘、下痢といった身体的な症状だけでなく、食生活の状況も記録できます。野菜の摂取量や水分補給の状況、タンパク質の摂取量など、日々の生活習慣に関する質問も含まれています。運動と直接の関連がなくても、運動をきっかけに健康意識を高め、生活習慣の改善につなげることを目的としています。
また、各項目は0から9の10段階で評価でき、運動前後や1週間単位での変化をデータとして蓄積できます。これにより、1週間前と比較してどの程度改善されたのかを確認できるため、運動の効果を実感しやすくなり、継続のモチベーション向上にもつながります。
さらに、蓄積されたデータをAIが分析し、「水分摂取量が不足しているので、これを増やすと体調が良くなりますよ」といった個別アドバイスを提供できる仕組みもあります。記録が増えるほどデータの精度が向上し、より具体的で実用的なアドバイスを受けられるのも大きなメリットです。

このサービスを導入した企業や社員の反応はいかがですか?

菊池さん:企業の社員数にもよりますが、大体100名規模の企業であれば、健康に関心を持っているのは3割程度で、初めに導入した3割のうち、8〜9割の方は継続して利用してくれています。
継続の理由としては、やはり「ポイントが貯まる」というインセンティブが大きいですね。このポイントは企業ごとに換算率が異なり、1ポイント0.3円として付与する企業もあれば、1ポイント1円として設定する企業もあります。そしてそのポイントはデジタルギフトとして利用できて、PayPayやAmazonギフト券など、利用者が自分で好きなギフトを選べるようになっているため、還元先の自由度が高いサービスとなっています。

このサービスを通じて、企業や社員の健康に対する意識や行動はどのように変わると考えていますか?
菊池さん:世の中にはメンタル状態を把握するパルスサーベイのようなツールがありますが、企業が導入しても、忙しい業務の中で適当に回答されることが多く、正確なデータが取れないという課題があります。特に月末の締め切り間際に慌てて回答すると、0(非常に悪い)か5(非常に良い)ばかりの極端なデータが並び、意味のある情報が得られにくいのです。
私たちのサービスでは、運動後のリフレッシュした状態で記録してもらうことで、より正確な健康データを取得できるようにしています。さらに、回答するとポイントが付与される仕組みにすることで、自然と習慣化しやすくなるよう設計しています。
また、ユーザーが本質的にサービスを活用し、継続できる仕組みとして、運動のタイミングにも工夫を施しています。アプリ内の運動動画は1日2回の配信に限定し、「決められた時間に実施する」ことを重視。これにより、「今やるべき」と意識しやすくなり、継続につながります。
運動の時間帯も、お昼休憩や帰宅後のリラックスタイムを想定し、AIトレーナーによる20秒程度の短い運動動画を配信。オフィスや自宅で手軽に実践でき、視聴しながら運動することで、その場でポイントが貯まる仕組みになっています。
さらに、毎週水曜日の夜と土曜日の朝にはオンラインでのライブセッションを実施し、ストレッチやヨガなどをリアルタイムで行える場を提供しています。一人では続けにくい運動も、集団の中で取り組むことで習慣化しやすくなります。
変化を楽しみながら自分の可能性を広げて働ける職場


会社の雰囲気や、これから会社に入る人に一番求めているものはなんでしょうか?
菊池さん:現在、会社には業務委託を含め約13名が在籍しており、年齢層は幅広く、18歳の大学生から上の世代まで多様なメンバーが揃っています。会社の雰囲気としては、新しいことに積極的にチャレンジする姿勢を持つ人が多く、常に成長し続ける文化があります。
大切にしているのは「まずやってみる」姿勢です。現代はAIツールなどの技術が進化し、これまで時間がかかっていたリサーチやシステム開発も瞬時にアウトプットを得られる時代になっています。そのため、専門知識がなくてもツールを活用しながら自身のスキルを磨き、より大きな成果を出すことが可能です。
社員も業務委託のメンバーも、こうしたツールを活用しながら、自分の戦闘能力を高め、挑戦を続けています。自分で考え試行錯誤しながらも、必要なタイミングで周囲に相談し、適切なアドバイスを得ることで成長できる環境を整えています。こうした姿勢を持つことで、ツールを使いこなしながら柔軟に変化に対応し、より高い成果を生み出せるようになります。
会社として求めているのは「変化に対応できる人」です。たとえば、マーケティング職で採用されたとしても、ツールの発展により役割が変わる可能性があります。その際に、環境の変化を前向きに受け入れ、新たなスキルを身につけながら柔軟に適応できるかが重要です。私たちは、特定の職種やスキルに縛られるのではなく、会社の目指す方向に共感し、自分がどのように貢献できるかを常に考えながら成長していける人と一緒に働きたいと考えています。
このように、与えられた仕事をこなすのではなく、時代の変化を捉えながら自らの可能性を広げていくことを大切にしています。

今後の展望を教えてください。
菊池さん:現在の貯筋トレ事業は運動を中心に展開していますが、今後は食事や睡眠の管理にも領域を広げる予定です。すべてを自社で対応するのではなく、パートナー企業と連携し、包括的な健康支援サービスを提供できる形を目指しています。
私たちの提供するサービスは、単に健康のために「やらなければならない」ものではなく、楽しみながら実践できるものにしていきたいと考えています。現在のアプリは、運動の動画を視聴し実践する形式が中心ですが、これをより日常的に自然に取り入れられる形にするため、ゲーム要素を取り入れることを検討しています。
現状のデータを分析すると、一部の人に「やらされている感」が生じていることもあり、これを解消することが課題の一つです。そのため、たとえば頑張った人がレベルアップする仕組みや、レベルに応じた特典を提供することで、利用者が義務感ではなく楽しみながら継続できるような仕組みをつくりたいと考えています。
将来的には、健康を向上させるプロセスが可視化され、ゲームのように段階的にレベルアップしていくことが実感できるサービスを目指しています。健康管理が単なるタスクではなく、日常の中で楽しみながら継続できるものとなるよう、サービスを進化させていきます。